信州名匠会は、職人同士の連携を深めお互いに情報交換をすることにより、すぐれた技術を生かし、建築物の質向上及び建築文化の創造・発展に貢献し、それによって公共の福祉の増進に寄与することを目的とし、平成5年に発足しました。
大工、内装、鉄筋、板金、塗装などの職人、建築家、芸術家を中心にした個人会員と、サブコンの経営者を中心とした賛助会員からなり、技術の伝承並びにすぐれた技術者の育成にも取り組んでいきます。
近年建築の現場から職人の技術が排除され、合理化が進み建築が「ものづくり」から「製品」に変わりつつあります。このような時代だからこそ、再び職人達の仕事が再認識され質の高い社会を創造し、その技術を後世に伝えることが重要と私どもは考えています。
信州名匠会会長 土本 俊和
信州名匠会は、1993年4月に創立しました。
故 宮本忠長前名誉会長が、当時、長野市立博物館のコンペで審査委員長を務めた後、何度か長野・小布施等を訪れた、東京大学名誉教授の村松貞次郎先生から、宮本忠長の作品づくりを支えているような長野県内の優秀な職人さんを「ものをつくる」という共通項で集めて、お互いに研鑽する場を継続してみては、という助言をいただきました。初代会長をお引き受けくださった村松先生のお志と穏やかなお人柄のお陰で、広い長野県中からいろんな職種の職人たちが集まりました。その後、藤森照信先生、宮本忠長先生、そして私と会長を引き継ぎ、会を継続してまいりました。
会の発足の中心となった宮本先生は、現代建築と歴史的建造物の双方をやっておられました。現代建築は基本的に新しいものをつくっていきますが、そこには職人の技術の裏打ちがあります。高度成長期の現代建築には悪い部分もありましたが、良い部分として、職人技術でつくられていたところがあります。歴史的建造物から学んだ職人が持っていた「手わざ」でつくられていたのです。
しかし、阪神・淡路大震災や東日本大震災、そして先日の熊本地震などにより、職人の木造建築は構造が弱いのではないかと言う人が出るようになってしまいました。また、工業化によって人間抜きの工法でできると思い込んだ人たちも出るようになってしまいました。当然、そんなことはない。今「いざ建物をつくろうとしたら、職人が居ずにできない」ということが、忽ち出てきているのです。
だからこそ、私たちは「手わざ」を世の中に伝え、継承し、主張していかなければなりません。そして、建築であるからには主張するだけでは意味がなく、作品で表現していかなければなりません。一人ひとりに力があっても、合わさらなければその力は出てこない。良い建築ができるのには、人の結び付きがあり、建築に先立つ「いとなみ」がある。その意味で、名匠会の集まりは、良い建築がつくられる前にある「いとなみ」として、非常に重要なものとなっています。
また、若い人たちへの継承も重要な課題でしょう。工業化により職人が減ってしまうなか、若い世代にいかに伝えていくか――。コンピュータ世代の若者たちは、情報をインターネットの検索だけで得てしまいます。彼らのいう情報は、人間の皮膚から離れている。現地に行かず、インターネットだけで情報を得てしまうため、暑さや寒さ、臭い、空気感といったものがない。つまりは視覚だけになっている。しかし、「手わざ」は建物を見るだけでは伝わりません。だからこそ、実際に集まり、「手わざ」に触れることのできる名匠会は、次の世代をつくる場にもなっていくと考えています。
1993年4月26日発足 | 「信州名匠会」設立総会 |
1993年8月 | 会報「たくみ」創刊 題字は、名誉会長 池田三四郎氏(長野県民芸協会会長) |
1995年12月21日 | 平成7年度 第3回総会、出版記念パーティー |
1996年4月19日 | 第4回全税共地域文化賞受賞(於イテ:帝国ホテル) |
1996年6月21日 | 平成8年度 第4回総会 |
1996年12月20日 | 建築家安藤忠雄講演会「可能性にかける」に協力 |
1997年6月23日 | 平成9年度 第5回総会 |
1997年8月29日 | 信州名匠会会長 村松貞次郎氏 逝去 |
1998年6月25日 | 平成10年度 第6回通常総会 |
1999年6月25日 | 平成11年度 第7回通常総会 |
1999年10月22日 | 堀誠氏(堀建築設計事務所 長野)が伝統的技能者(第42回建築士会全国大会)の表彰を受ける |
1999年12月15日 | 信州名匠会名誉会長 池田三四郎氏 逝去 |
2000年6月28日 | 平成12年度 第8回通常総会 |
2001年6月28日 | 平成13年度 第9回通常総会 |
2002年6月21日 | 平成14年度 第10回通常総会 |
2003年6月25日 | 平成15年度 第11回通常総会 |
2003年6月7日 | 宮本忠長会長、2003年度日本芸術院賞受賞、信毎賞を受賞 |
2003年11月 | 水沢仁亮氏、長野県卓越技能者「信州の名工」として |
2003年11月 | 坂戸雄世氏(サカト産業)、長野市景観賞、受賞 |
2004年6月25日 | 平成16年度 第12回通常総会 |
2004年11月 | 宮本忠長会長、旭日中綬賞を受賞 |
2005年1月31日 | 信州名匠会顧問、近江栄氏(日本大学名誉教授)逝去 |
2005年7月7日 | 平成17年度 第13回通常総会 |
2006年7月6日 | 平成18年度 第14回通常総会 |
2007年6月27日 | 平成19年度 第15回通常総会 ■記念講演 「善光寺の世界遺産登録に向けて」 講師/土本俊和氏(信州大学工学部社会開発工学科教授) パネルディスカッション/土本俊和氏、藤森照信氏 |
2008年6月25日 | 平成20年度 第16回通常総会 |
2008年6月 | 建具職人 中村光敬氏、 |
2009年6月24日 | 平成21年度 第17回通常総会 |
2009年9月21日 | 信州名匠会顧問、吉田義男氏(新建築社相談役)逝去 |
2009年11月 | 板金工 水沢仁亮氏(二見屋社長)黄綬褒章 受章 |
2010年6月23日 | 平成22年度 第18回通常総会 ■記念講演 「小布施町・まちづくりの軌跡~チャレンジの積み重ね」 講師/川向正人氏(東京理科大学理工学部) |
2011年6月29日 | 平成23年度 第19回通常総会 ■記念講演 「歴史から学ぶ」 講師/市村次夫氏(小布施堂社長) |
2012年6月29日 | 平成24年度 第20回通常総会 出澤潔氏、旭日双光章を受賞 |
2013年6月25日 | 平成25年度 第21回通常総会 ■記念講演 「好い加減な巧」 |
2014年6月30日 | 平成26年度 第22回通常総会 ■講演 「長野から世界へ」 |
2014年4月 | 土本会長、文部科学大臣表彰科学技術賞を受賞 |
2015年6月25日 | 平成27年度 第23回通常総会 ■講演 「これからは伝えるために生きたい」 |
2016年2月25日 | 信州名匠会名誉会長、宮本忠長氏 逝去 |
2016年6月27日 | 平成28年度 第24回通常総会 ■講演 「宮本忠長先生と小布施の仕事」 中村光敬氏「信州の名工」表彰 |
2017年6月29日 | 平成29年度 第25回通常総会 ■講演 「茶室建築の技と知恵」 会報「たくみ」40号 発刊 |
2018年6月27日 | 平成30年度・第26回総会開催 ■講演 「働き方改革をチャンス」 |
2019年6月27日 | 令和元年度・第27回総会開催 ■講演 「社寺建築の彫刻 匠の技と心」 |
2020年6月25日 | 令和2年度・第28回総会(書面決議形式で実施) |
2021年6月30日 |
令和3年度・第29回総会(書面決議形式で実施) |