会報誌たくみ

 

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匠たちを育て束ねる、指揮者のような匠像を追求する

株式会社シナノ大理石(長野市)
代表取締役社長 犬飼栄治氏

プロフィール/昭和22(1947)年5月24日生まれ、64歳。松本市出身。思い出の物件はメルパルク1階や、軽井沢のホテルエラール、ホテルガレェなど。陶芸や囲碁、読書にゴルフと多趣味。

 

犬飼さんは中学まで松本市で暮らし、国立長野高専を卒業後、20 歳で上京。森ビルに就職した。「いまでこそ100棟以上のビルを持っていますが、当時は社員27 人、ビルは11 棟だけでした」。冷暖房付き貸しビルの走り。「ビルの設備を勉強させてもらいました」。
その後、営業を担当し、赤坂の再開発やリゾート地の開発をはじめ、不動産売買の仕事を手がけた。また、新ビル管理チームでは、大手ゼネコンの所長らとも毎週のように会議を重ね、「建設の仕事も勉強させてもらいました」。

 

 

32 歳のときに結婚し、東京に一年ほどいた後、長野に戻った。ご夫人の父とシナノ大理石の立ち上げに奮闘する。
「会社としては新参者。『棚板一枚から』ということでいろんなところへ顔を出して、やらせていただきました」。

 

石工事については、「石の仕事は『正解』がないけれども、失敗は許されない。石に関する基本的な知識から美的な要素まで。たとえば赤と黒の石をどう配色したらセンス良く見えるか—。そこまでやらないと匠にはなれない」。そう話すまなざしは真剣そのもの。

「石割付図一つとっても、実際の石は一枚一枚違う。石を貼っていくときに1 段目で1 ㎜違うと、上までいったときに何㎜も空いてしまう。だから、1 段目から神経をつかって何回も糸を見て、水平見て、立ちを見て、一枚一枚を慎重に取り付けていきます」。

 

 

後輩を育てるのも容易ではない。「そんなレベルにまで育てるには10 年はかかります」。中国から働きに来た人も抱えている。彼らの不安は当面はお金。「やる気があるなら一緒にやろうよ」。そう声をかけてきた。「失敗してもいいからやってみろと。高い物をわざと割るやつはいません」。そう楽しそうに話す犬飼さんのもと、職人は自然と一つにまとまる。
「匠という言葉はとかく、他人よりよい物を造る人、他人のできないことをやれる人とイメージされがちです。しかし私みたいに、『いい物(適正な価格と品質)を、技能を持った人と組み合わせて、より良い建物や空間を創造する』・・・こんな指揮者(コンダクター)のような匠も、必要ではなかろうかと、勝手に納得しています」。(栗原直良)

 

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