会報誌たくみ

 

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木を愛する家具職人
技と工夫で顧客のイメージを形に

有限会社 朝陽工芸 代表取締役
内山保氏(長野市穂保)

プロフィール/●昭和23年12月6日、長野市(旧信州新町)生まれ、66歳。社員9人。ご家族は夫人と一男三女。

 

「家具職人は木が好きじゃなければだめ。加工するときに美しい木目が、さーっと現れる瞬間が魅力なんです」と語る。木の特徴や美しさを生かすのが職人の腕だ。さまざまな種類の木とつきあってきた。「狂いが大きいカラマツには手を焼きました」と笑いながら思い出す。「一番好きな木(材)は、やっぱりケヤキかな」

 

長野市内の老舗の木工店で丁稚奉公のような形で修行した。ミシンやギターなどの木製部品の加工を通じて繊細な技術を身につけた。その後、仲間の一人と独立。バブルがはじけた直後で、「商売の元になる木工機械を購入するのに苦労した」と振り返る。


手がけるのは、棚やカウンターなど建築の造り付け家具。創業30 年の信用で、顧客の工務店や設計士らからお任せで仕事を頼まれることも多い。住宅の仕事を中心としながら、美術館や店舗、学校・図書館といった、さまざまな施設の仕事もこなす。最近では、茅野市の尖石縄文考古館で国宝「土偶」(縄文のビーナス・仮面の女神)の展示ケースをつくったのが印象深い。「楽しい仕事で、満足のいくものをつくることができた」と笑顔を見せる。新しい長野駅ビルでは、タリーズコーヒーのカウンターや棚などを、開店前に夜通しの突貫工事で仕上げた。

 

「私は物造り一筋です。何があっても、
物造りを続けてきて良かったと思います」

 

仕事をする上で最も大切しているのはお客さんの想い。「家具は、いろいろ工夫できるところが面白くて、それによってお客さんが喜ぶ顔を見るのが何よりうれしい」。塗装によって古材の雰囲気を醸し出した家具には、蝶番を焼いてレトロ調にしたものを組み合わせるなど、妥協せず、こだわり抜く。自社の木工機械は、あらゆるカット(面取縁)やアールに対応可能だ。「お客さんや設計士さんのイメージを、そのまま形にしてあげたい」と職人気質がにじみ出る。そんな思いを込めて仕事に打ち込むだけに、最近は飛び込みの客にニトリのチラシを見せられて、「この価格でこんな感じのものをつくってもらえないか」と頼まれることもあり「ちょっと寂しさを感じてしまいますね」とつぶやく。

 

長男で二代目の挙太さんと。

 

いま社内には、後継者と期待する20 代半ばの長男挙太(けんた)さんをあわせて3人の若者が働いている。「彼らを早く一人前にすることが自分の最大のテーマです」と力を込める。厳しい家具業界を技術で生き抜いていける職人に育て上げる覚悟だ。(関卓実)

 

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