会報誌たくみ

 

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命を守り、技術をつなぐ

サンコー特機株式会社 代表取締役
宮下 知子氏(長野市南長池)

プロフィール/●長野市出身

 

自分たちの仕事を「命を守るもの」だと言い切る。「だから、当社は24 時間・365日対応。必要に迫られれば夜中でもお客さまのところに駆け付けます。社員のみなさんに苦労をかけていますが、やってもらっている」。


サンコー特機の事業の柱は、消防施設工事業と電気通信工事業、それにともなう電気工事業の3つだ。保守点検と工事を行っている。いままでに長野冬季オリンピック施設のホワイトリングや今井団地、善光寺の経堂や別所温泉の五重塔などを手掛けてきた。最近では、新しくなった長野駅・駅内のMIDORI・ホテルメトロポリタンなどを総合的に見守っている。


創業者は実父で先代の恒夫さん。5人でスタートした。「このうち、一人は今も生き字引。もう一人は技術を支えてくれていて、工事をやり、保守点検をやってくれている」という。


知子さん自身は短大卒業後、銀行に勤めたあとに誘われ、「腰掛けのつもりで入った」という。はじめは保守点検の事務をやり、その後は経理。夢中で働いていたときに、先代が亡くなった。当時、社員は23人ほど。社員のためにどうしたらいいかを考え「仕事を続けないといけないと思った」という。引き継ぎはゼロだったが、社長を継ぐことを決めた。そうして今を迎えている。昨年、先代の7回忌を行った。


会社の宝は「技術」。創業からの熟練者を筆頭に、若い世代に技術を継続していくのが使命だ。過去には社員教育として横浜のランドマークタワーの工事に泊まり込みで手伝いに出たこともある。「なにより、工事をやることが大切。それによって、技術力が向上し、対応力が上がる。工事をしなければ技術を維持できない。お客様のためでもあり、巡り巡って自分たちのためにもなる。その循環が我が社の基礎です」。今、20代の若手がいるが「さらに若い世代を入れていきたい。若手を入れることで、今の若手が先輩になり、気概と技が巡っていく」。


名匠会を担当する白石大陸さんは昭和51年生まれ。先代の時代から受け継ぐ技術をつなぎながら、新しい技術にも対応している存在だ。「どんどん変わる消防法や設備に対し、最前線に立って対応してくれている。名匠会を通して異業種の方たちと付き合い、新しい視点を当社に入れてくれている」と知子さんはいう。


白石さんは旅行に行くと、行った先の建物で天井を見る。「消火設備の種類や施工の工夫に目がいってしまう」。命を守るものでありながら、景観にも気を配らなければならない。そこに高い技術が隠れている。文化財であれば、伝統の建物に寄りそうように、空気管などは一本一本手打ちだ。それは観光地でも変わらない。「ディズニーランドに行っても、まずは天井を見てしまうんです。職業病ですね」


知子さんは先代と生前、何となく交わした会話を憶えている。「なんで社名がサンコーなのかと聞いたんです。消防や防災といった言葉が入っていないせいで、あやしまれることがあるので。そうしたら『そうはいかねえ』って、いつもの口癖で言われて。いろいろと変わっていけるようにと考えていたのでしょう。でも、地道に誠実に、技術を磨いて3本の仕事をやってきた」


先代からの技術を地道に誠実に、若い世代へと繋げ、命を守っていくサンコー特機。名匠会については「さまざまな技術を持った会社や人から、事例を学ばせていただく良い機会をいただいている」と話す。「研修会で、完成前の現場を見ることもある。自分たちが持つ消防のための技術や考え方とは別の、建築家の設計意図など異業種の方の考えを聞き、知ることができると『なるほど』と思う瞬間が多い。本当に勉強になる」

 

先代の恒夫さんの遺影を横に語る宮下知子さん 

 

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