テント、シートで時代のニーズ に応える
大阪万博に「触発」、今年4代目に継承
株式会社北信帆布 取締役会長
福島 一明氏(長野市風間)
プロフィール/●昭和19(1944)年11月3日、山ノ内町生まれ、80歳
明治42(1909)年創業、今年117期目を迎える老舗企業の3代目。
家業は、祖父が家具製 作から雨合羽の製造に転じたことに始まる。
和紙に油を塗った合羽は軽量で、携帯しやすく、旅人に重宝されたという。
その後、ゴム引きの布を使った幌の製造に移行。人力車や鉄道馬車の幌を製作した。耐久性に優れたゴム引きだが、経年により、ひび割れが生じるため、職人が補修作業も行ったという。
当時の顧客には宇都宮自動車販売部(現長野トヨタ)や国鉄(現JR)など、今 に続く企業が名を連ねる。
関東大震災により、避難してきた印刷業者向けの資材倉庫として麻布製のテントが大量に売れた。
また、戦時中には米軍の爆撃から家を守るために黒い幕を製造。戦後は、トラックの幌や日よけの製造に移行したが、やがてアルミパネルなどに取って代わられたという。「どれも一時必要とされ、短期間で役目を終える。そのたびに新しい需要を見つけるとい う繰り返しです」。
新社長(手前)と語り合う福島会長(奥)
家業を継ぐ前は、金融機関への就職を予定していたが、父である先代社長の高齢化を理由に工場長から呼び戻されたという。
「父からの話だったら断っていたと思う。それを分かっていて、工場長に言わせたのでしょう」。
入社当時はトラックの幌の製造を中心に手がけ、その後、テント倉庫や機能テントの開発に力を入れてきた。
1964年の大阪万博で見たテント建築に「触発された」。顧客からの依頼でテント倉庫を試作。それが長野県初のテント 倉庫となった。
当初は建築確認が不要で、需要が急増。さらに、テントに新たな価値を加えるために、ダイキン工業と共同でテント冷蔵庫を開発し、近年は畑の畝をシートで作る「シートマルチ」を開発。このシートマルチは、東日本大震災の被災地の仮設住宅に寄付すると、「大変喜ばれた」という。
建築基準法においてテント倉庫の規定には「曖昧な部分がある」なか、仮設建築物の定義や、サウナテントなど新しい用途に「行政側での議論の必要性」を指摘。
一方で、行政側にとっても、それは「難しい部分でもある」とし、「早期に顧客の要 望や現場の状況を把握し、最適な解決策を提示することを目指しています」と話す。現在、海上保安庁の業務で、巡視船の周囲 に取り付ける防舷材の製造を行っているという。
ロープの編み方など特殊な技術が必要で、「他社には真似できない」と語る。 時代の要請に応えるため、製造拠点の拡張や、多能工的な職人 の育成にも力を入れていると語った。
今年4月1日には社長職を息子の弘数氏に託した。弘数社長は、以前は医療系の分野で言語聴覚士として働いていたという。
「ときには経営者と話をすることがあり、父の姿を重ね、家業を 継ぐことを決意した」という。
「テントの自由度の高さを活かし、 太陽光発電や異業種との連携、学生との共同開発などを通じて、新たな可能性を探っていきたい」と話す新社長の姿を優しく 見守っていた。
(栗原直良)