会報誌たくみ

 

定例研修会報告 平成24年度

 

平成24年度 第7回研修会

「ともしび博物館」見学 -村越先生を囲んでの昼食会-

開催日/平成25年4月13日

●ともしび博物館(設計 宮本忠長建築設計事務所 1989年竣工)見学

長野市から上信越道を約1時間半走り、山林に囲まれたともしび博物館を訪ねた。
ともしび博物館は、旧武石村(現上田市)の村政100周年を記念して公園に隣接した山林の中につくられた。体験学習館、展示館、伝承館、茶室などの建物が、高低差のある敷地内に自然の地形をいかして配置され、来場者は、草木が植えられた庭や鯉が泳ぐ池、周囲の自然などを楽しみながら見学する。

各展示館は、防火性能を考えRCで造られ、これを木組みで包み、この上に屋根付き切り妻の大屋根を架けることで、深い軒空間を造り出しコンクリート躯体を保護し、さらに人々の寄り付き空間を演出している。

建物の扉や壁等、館のあちこちに、切絵作家の柳沢京子氏のデザインが施され、特に、武石の四季に取材した切り絵を光で演出した「あかり幻想」は幻想的な雰囲気を醸し出している。

体験学習館で火おこし体験をしたり、うつしく精巧にできた灯具を鑑賞しながら建築空間を堪能し、園内を巡り、初春の心地よい日差しの中、気持ちよいひと時を過ごした。


●雪しろ窯(村越久子氏の陶芸工房)昼食会

見学の後、毎年、陶芸教室を開いて頂いていた「雪しろ窯」へ向かった。
渓谷沿いに建つ陶芸工房は、まだ早いかと思った桜が開花し、天候に恵まれ大変美しかった。体調が心配された村越先生も大変お元気で我々を迎えてくれた。

昨年まで陶芸教室が行われた作業場で、先生に用意していただいた食事をいただき、作業場に飾られた初回の陶芸教室の写真や、去年の写真等を話題に思い出話しに花が咲いた。

先生が、ガラス細工で模様が入れられたカップ等をひとつひとつ丁寧に梱包した素敵な贈りを一人一人に用意してくださり、それをみんなでくじ引きをし、先生が一人一人に手渡した。

贈り物をいただいた参加者が、それぞれ先生との思い出と感謝の気持ちを伝え、みんなの心に残る大変楽しく思い出深い食事会となった。

 

平成24年度 第6回研修会

「びんぐし湯さん館」

開催日/平成25年3月2日

平成14年、当会名誉会長 宮本忠長が設計し開館。当時の担当者であった西澤嘉雄氏が昨年改修設計し、リニュアルオープンした坂城町の「びんぐし湯さん館」を見学した。温泉にゆっくりつかり「語り合う会」が催された。

最初に和室で、西澤嘉雄氏から、計画の経緯、計画概要、改修概要等が説明された。
湯さん館の在るこの地の山(びんぐし山)が、鬢櫛(びんぐし)の形に似ていることから館名が付けられた事や、信州名匠会の会員大勢に協力いただいていること、設計・ものづくりで工夫した点などについて話を伺った。

続いて事務局から、今後の会の活動等について、食事をしながら、また、湯につかりながら意見交換してもらいたい旨の説明があった。

その後、普段、水着でないとなかなか見ることのできない運動浴場も見学させていただいた。
歩行浴等様々な用途に使用できるよう床の高さが可変となっている事や、プールの形を卵型にしたこと等、ユニークな計画になっていること等が紹介された。

館のご厚意で、和室で一同、おいしい昼食をいただいた後、リニュアルされた素晴らしい温泉を堪能し、「建築の事・会の事」等を話し懇親を深めながら、楽しいひと時を過ごす事ができた。

 

新年会

開催日/平成25年1月23日、ホテル犀北館

恒例の信州名匠会新年会が犀北館で行われ、会員同士が親睦を深め、一年の抱負を語り合った。

冒頭、井内猛男副会長があいさつに立ち、「職人不足が叫ばれる今こそ、われわれのような匠の会が職人の実情を世の中に伝えなければ」と訴えた。乾杯の音頭を前に降幡廣信副会長は「誇りを持った人の仕事と持たない人の仕事の違いは歴然。全国の範たる会としてプライドを持って仕事に臨もう」と呼び掛けた。

新年会の中では、新会員として、30代の若さながら社寺建築などで茅葺施工の豊富な実績を持つ米山智明さん(茅葺信州・伊那市)の紹介もあった。

 

平成24年度 第5回研修会

「日本人の伝統美を守る職人の仕事」
寺社~東京駅丸の内駅舎保存復原工事

開催日/平成24年12月19日
師/水沢仁亮 氏(㈱二見屋)
////柳澤   氏(㈱二見屋)

当会会員で、平成21年に「半世紀にわたる建築板金工としての活動」が評価され、黄綬褒章を受章された二見屋の水沢氏に、善光寺等多くの寺社仏閣を手掛けてきたことや、今まで培ってきた伝統的な技術が、東京駅丸の内駅舎の仕事に生かされたこと等のお話を伺った。

東京駅は、1945年(昭和20年)戦災により一部消失した後、2階建駅舎に復興したものを、平成19年から5年、500億円の巨費を投じて、1914年(大正3年)に辰野金吾により設計された創建当時の姿に復元された。
この建物は、外壁の赤レンガ、黒い天然スレート屋根と、銅板が織りなすコントラストが美しく、この銅板葺き工事に全国から60人を超す職人が集められた。
この中の一人である、二見屋の栁澤氏に現場写真を観ながら、難しかった点や施工上のポイント等貴重なお話しを伺った。
当初、現場で施工図を作成していたが、職人の経験の積み重ねで形を造る銅板葺では、図面通りでは納まらず、銅板で実物を造り確認し、職人がこれを基に作成したことや、現在多く用いられている溶接工法は使わず100年前の施工方法のはぜ組で施工されたこと等を伺い、大変な仕事であったことを実感した。

屋根銅板葺き工事は、一年半に及び、約1,500人工を要したという。水沢氏は、「この工事により、全国の若い職人が外へ出て行くことで新しい工法技術を覚えることができたことが、大変意義があった」と結んだ。

 

信州名匠会研修旅行「名古屋~歴史・文化に触れる旅」

尾張徳川~近代 名古屋の建築からものづくりを学ぶ

開催日/平成24年11月10日・11日

信州名匠会の平成24年の研修旅行は、11月10・11日に23名が参加して行われた。今回は、平成21年から約150億円の巨費を投じ始まった「名古屋城本丸御殿」の現場見学会を始め、尾張徳川の歴史から近代建築の名作まで、身近にありながらなかなかじっくり観ることのなかった名古屋を満喫する旅となった。

史実に忠実に復元することで、
匠の伝統技術・技法を継承


早朝長野をたち、最初に、徳川美術館・徳川苑を見学。午後見学する本丸御殿の資料を含む、尾張徳川に歴史・文化を学び、名古屋城へ向かった。

 

名古屋市の職員3名の案内で、平成26年完成予定のⅠ期工事(玄関・表書院・中之口部屋・溜之間 等)の状況を、詳細に説明していただいた。本丸御殿は、昭和20年に空襲により天守閣と共に消失してしまったが、多くの写真や実測図が残されていたことから、史実に忠実な復元が可能となった。屋根の杮葺き、棟瓦の納まり、小屋組みの状況等、見学通路からまじかに観る事が出来、また、木材加工場も案何していただき、日頃の仕事と直接関連する会員も多く時間を忘れて熱心に見学させていただいた。その後、名古屋能楽堂で、舞台・見所を見学、名古屋コーチンを肴に懇親を深め、一日目を終えた。

 

二日目は、日本のモダニズム建築に多大な影響を与えた建築家 アントニオ・レーモンド設計の「神言神学館」を見学。杉板の打ち放しコンクリートとレンガ色の着色壁のシンプルな材料と、独創的な形態で、静かな素晴らしい祈りの空間を創出されていることに、一同感動。

 

保存再生改修工事が完成した槇文彦の代表作「名古屋大学 豊田講堂」、「文化の道橦木館」、ノリタケの森(ノリタケの食器おいしいランチも堪能)と盛り沢山の見学を終え帰路についた。

 

平成24年度 第4回研修会

民家再生見学会「職人の技とこころ」

開催日/平成24年10月24日

師/川内 一平 氏(宮入小左衛門行平 一門)

10月の研修会は坂城町の鉄の展示館開館10周年記念の「祈りのかたち」という宮入小左衛門行平作品展にあわせて宮入氏をお迎えして個展の見学と講演会を行う予定でした。
当日、宮入氏が事情により出席できなくなり、一門(河内氏は平成12年から宮入氏に入門し、17年に作刀承認を受け、同年新作刀展覧会に入賞。優秀な方で、現在は独立して自身の鍛錬場をお持ちです。)

展示品には、宮入氏が行平を名乗る前の初期の作品から、高倉健さんの紫綬褒章の記念の守り刀、最近の作品まで数多くの展示を見ることが出来ました。
河内氏の丁寧な解説から宮入氏の作刀における気持ちや造形的な視点など、普段では窺い知ることのない話を聞くことが出来ました。
地金や波紋の美しさ・どんな姿に作るのか、出来栄えをイメージしながらそのかたちに仕上ていく技術など、宮入氏の実際の作刀をそばで見てきた河内氏ならではの話により、刀をつくる情景が浮かんでくるようでした。

また、講演では刀のつくり方の基本から、作る際の刀匠の思いなどを語っていただき、私たち会員の聞きづらい質問などにも快くお答えくださりました。
刀は昔、兵器でしたが、今ある古いものは美術品として大名家に残され、有名な武将が持っていたものもあり、その刀にまつわるエピソードも多くあるそうです。今は美術品として手にする方への送り手・作り手の思いをのせる神聖なもののように思います。


今回の研修から、創り手として仕事に心を込める美しさを改めて感じさせていただきました。私たちもそんな気持ちで仕事に向かいたいものです。

(文・会員委員会 小川明)

 

 

平成24年度 第3回研修会

民家再生見学会「職人の技とこころ」

開催日/平成24年9月29日

師/川上恵一 氏 (株)かわかみ建築設計室

前回の研修会に引き続き、かわかみ建築設計室所長で倒壊会員、川上恵一氏に、民家再生の現場を2件見学させて頂いた。
当日は施主や工事を担当している棟梁の貴重な話をお聞きすることができた。

 

1件目は穂高にある築100年以上の見世蔵を再生した住宅を見学。

川上氏は「古いものは懐かしがるだけではなく、現代に相応しいものにする必要がある」と話し、既存の見世蔵の造りをどう生かし再生したのか、再生する際の苦労した点も含め住宅内を見学しながら説明して頂いた。

残したところと、変えたところ。新旧が自然に組み合わさり、古民家の趣、雰囲気を残しながらも現代の生活に合う住宅に甦っていた。

 


2件目は松本市野溝で現在建設中の本棟造りの民家再生現場を見学。


建設中のまだ塗装されていない材を見ると、新材と古材が混在していることがよくわかる。

長年使われた木材はねじれたり、白蟻の被害にあったりと様々な問題を抱える。
さらに、建てられた時代、地域によって使われる材も造りも異なるという。

それを補うのが新材であり、職人の技術、知識である。

古材を利用することは簡単なことではない。

それでも古材を使うことでこれまで使われてきた民家の歴史を残していくことが大事だという。

今まで暮らしてきた家をそのままの形ではないが、継承していくことで、その家族の歴史や思いを残すことにつながる。

 

古民家を改修することは、機能的にも経済的にも効率がいいものではないかもしれないが、生産性だけが価値ではない。

“手間”や“職人の技術”といった付加価値を見直していく必要性を感じた。

 

平成24年度 第2回研修会

県産材木製サッシ、県内で生産
山崎屋木工製作所を見学

開催日/平成24年8月29日

師/山崎慎一郎 氏 ㈱山崎屋木工製作所 代表取締役
////竹内  港 氏 ㈱山崎屋木工製作所 プロジェクトリーダー

長野県産のヒノキやカラマツを使った高性能断熱木製サッシュの量産化に向けて取り組んでいる山崎屋木工製作所(当会会員)を見学。
県産材の新たな用途として、ついに建材にも使われる日が来る。

研修会当日は、山崎氏の説明を受けながら、昨年9月に導入したというSCM社(イタリア)製のCNCマシンが実際に窓を削り出す様子も見学させていただいた。窓は、開き窓と引き窓を製品化する計画で、開き窓はトリプルガラスで熱貫流率1.0W/m2・Kを目標に、引き窓は同じく1.7W/m2・Kを目標に設定しているという。

木は、アルミや樹脂より断熱性能が高く、高品質であるとともに、使用するヒノキやカラマツを信州の木認証製品工場から納入することで、森林県「長野」で育った木を使い、林業や製材業の活性化にも貢献しようとの思いがあるという。

見学後、今年の3月にドイツのニュルンベルグにて開催された「フェンスターバウ」(窓、開口部の国際展示会)の様子を山崎氏に、4月にイタリアのミラノにて開催された「ミラノサローネ」の様子を竹内氏に、それぞれ写真を見ながら説明していただいた。


同社の木製サッシュは、昨年10月に建材試験センター(草加市)で試験を行い、11月には「ジャパンホームショー2012」にも出展。25年度は、木製サッシの「防火認定」を取得する予定という。地域の取り組みが世界のサッシュ・インテリアデザインの動きにつながり得る、「グローカル」を感じさせる有意義なひとときとなった。

 

平成24年度 第1回研修会

「民芸に学ぶ家づくり」〜その技と心〜

開催日/平成24年7月26日

師/川上恵一 氏(かわかみ建築設計室社長)

当会会員でJIA長野県クラブの新会長に就任された川上恵一氏を講師に招き「民芸に学ぶ家づくり」と題する話を聞いた。

 

川上氏は家づくりを考えるとき、民芸運動の創始者、柳宗悦の思想に思いを馳せようと話す。名も無き職人の手仕事に価値を見いだすこと、それは「己を殺す」ことと言う。ともすると作家性に憧れ、名前を残すことを良しとしてしまう。そんな風潮に氏は、「皆と同じ技術を習得して始めて一人前」と釘を刺し、「己を殺すことが己を表現することにつながる」とした。

 

また、古民家を再生する際は、「ただ思い出だけで残すのではなく、地域に学びつつ、新しい時代をどう読み取り、それをどう生かすかが重要」として、「その時に職人さんの力が欠かせない」と訴えた。

 

川上氏は信州の民家を分類分けすると、①茅葺き寄せ棟造り②本棟づくり(ハフヤ、ヨコヤ)③蚕室造り(養蚕農家住宅)④蔵造り(置屋根式、建てぐるみ)⑤出し梁造り(主に街道沿いの町家)⑥洋館(郵便局、病院、ハイカラ住宅)—の6種類に分けられると説明。これらの民家は寒さや使いづらさ、手入れが大変など一見不合理な点があるものの、地域の材料を使い、不便さがかえって信州人の健康を育んだり、人づくりやまちづくり、文化を培ってきたとして、これからの信州の家づくりには、①地域に特有の形を生かす②地域の材料(木材・石・土など)を使う③地域の職人の手仕事を大切にする④現代の生活にマッチした間取り・デザイン—をポイントに挙げた。

 

平成24年度 第20回総会

新会長に土本俊和氏

開催日/平成24年6月29日

当会は6月29日、長野市の犀北館ホテルで第20回通常総会を開き、23年度の事業報告と24年度の事業計画などを決めた。また、宮本忠長会長の推薦により5代目会長に副会長の土本俊和氏(信州大学工学部建築学科教授)を選出。全会一致で承認した。宮本会長は前会長の藤森照信氏とともに名誉会長に就任した。

 

今回のスリースター制度認定では、新たに31人を認定。総会後には土本新会長が「地域文化を発展させる職人技術」と題して講演した。

 

講演録(要約)

「地域文化を発展させる職人技術」

〜近年の文化財の動向を踏まえて〜

土本俊和新会長

 

近年、文化財の概念が国宝や重要文化財といった博物館の中の美術工芸品、いわば冷凍保存されたモノから、重要伝統的建造物群保存地区や文化的景観といった現在の生活を含む分野にまで広がり、それに伴って、地域の職人技術も注目されるようになった。

 

重要伝統的建造物群保存地区が選定されたのは昭和50年。文化財保護法の改正によるもので、日本が高度経済成長期を迎え、街並みや古い建物群がどんどん失われるようになったことが背景にある。また、平成8年には登録文化財制度ができ、この頃から「利活用」という言葉が徐々に使われ始めた。使うことで価値が高まり、保存状態もよくなるという考え方で、この頃から古い建物を商店や旅館などに使う例が見られるようになった。

 

建物を維持管理していくには、そこで暮らす人々の日々の努力が必要だし、古いものを生かしながら発展的に世の中を変えていくためには職人技術が欠かせない。善光寺を維持管理していくためにも材料を吟味し、伝統的な技法や技術を使う職人、価値を見極める目利きとしての職人の存在が不可欠。

 

文化財の概念がどんどん広がっていくことで、職人技術が必要とされる場面がますます増えている。そんな時代になっていくことが期待される。

 

 

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