会報誌たくみ

 

定例研修会報告 平成26年度

 

平成26年度 第8回研修会

「ソヤノウッドパーク」「牛伏川階段工」見学会

開催日/平成27年5月30日
師/ソヤノウッドパーク
/// 星川嘉諒 氏 征矢野建材㈱ 
///

///牛伏川階段工
////落合一視 氏 落合コンサルタント 
///加藤輝和 氏 牛伏鉢伏友の会代表 
////山浦直人 氏 長野県歴史館客員学芸員

ソヤノウッドパーク

塩尻市で平成27年4月に操業を開始した、ソヤノウッドパークを見学させていただいた。
信州の豊富な森林資源を活用して、森林の価値を高めるプロジェクトの現場である。

 

日本で唯一、圧密製法によって床材を作ることができるフローリング製造工場を見学した。
圧密製法とは、熱を加えながら圧縮して、強固で質の高いものへと加工する製法だ。

 

午後は製材工場へ移動。トラック30台の原木を一日で製材することができ、年間で最大30万㎥もの生産能力がある。
長野県は全国3位の森林蓄積量を誇るものの木材を活用しきれていない。この工場で長野県全体の森林の成長率約10%を消費することができ、長野県産材の今後の普及が期待される。3万坪超の広大な敷地は、原木から最終製品になるまでいくつかの工場によって分かれている。
①原木選別機②製材工場③乾燥機④造作材工場⑤床材加工工場⑥バイオマス発電(平成29年操業予定)等。徹底して自動化によって、数名で各工場を稼働できる。
省人化と生産性の両立を可能にし、全国や世界との競争を見据えていた。

 

製材工場では毎秒360回のレーザースキャンにより、その原木にあった木取りを自動で行う。また床材加工工場では3種類のカメラでスキャンを行い、寸法や欠点を検知しグレードごとに仕分けすることができる。従来であれば数十名を要する工程であるが、本工場では3名で行う。次々にスキャンされ瞬時に適切な長さへと切断されていく様子は圧巻である。
バイオマス発電は、製材過程で出たオガ粉や皮、枝や葉まで余すことなくすべてを発電の材料とする計画である。

 

重要文化財「牛伏川階段工」

この後、当会会員の落合氏の先導で、土木遺産「牛伏川階段工」(重要文化財)に向かった。牛伏川階段工の調査・保存・保全に尽力している加藤・山浦両氏に散策路を案内いただき、貴重な写真
も見せていただきながらお話を伺った。

 

牛伏川は幾度も災害を受けてきた。その災害の歴史と、防災に取り組む先人の足跡に触れながら、階段工が創り上げる風景を堪能した。コンクリートを使わない空石積み工法で造られており、機械がなかった約百年前に人の手で積み上げられた。19段の水叩きがあり、その各段の間には小段が設けられている。石に水がぶつかり音を奏で、流れに模様ができる様子は、水の勢いを緩衝するだけでなく芸術的な景観を作っている。

 

大変天気が良く暑い1日であったが、大自然に囲まれながら階段工の繊細かつ力強い空間にふれられ、暑さと疲れを忘れる気持ちの良いひとときとなった。

(西澤 広智)

 

平成26年度 第7回研修会

松代の寺町商家見学、お花見、陶芸教室

開催日/平成27年4月18日
師/西澤嘉雄氏(㈲エヌ設計所長)

4月の研修会は、松代にて恒例の花見を兼ねた見学会・親睦会を行った。天気にも恵まれ、4月4日に保存修理工事を経て一般公開された市の有形文化財「寺町商家(旧金箱家住宅)」見学、松代城跡にて昼食を兼ねたお花見、その後に村越先生のご逝去後中断となっていた陶芸教室を「松代陶苑」にて行った。

 

最初に訪れた寺町商家(旧金箱家住宅)は、松代において江戸時代末期から昭和初期まで質屋等を営んでいた商家・金箱家の屋敷である。

主屋や質蔵、離れ等の7棟からなる歴史的建造物群と、泉水路と池を中心とした庭園が現存しており松代における豊かな商家の暮らしぶりを伝える貴重な屋敷だ。

 

市が所有権を取得し整備することで貴重な建造物に再び命が吹き込まれ利用・公開されることとなった。中でも大空間の質蔵は十字に重ねた梁が特徴の独特な小屋組みで貴重なものであった。

 

古くて価値ある建物をこのような形で残していくことでさらに価値が高まると感じる。今後レストランやギャラリー、貸スペースとして積極的に観光スポットとして展開するようで注目したい。

 

桜吹雪の中で花見弁当を堪能した後は、松代陶苑に移動して陶芸教室を行った。村越先生へ思いを馳せながら各々1kg の粘土をもとに約2時間、皆集中し茶碗や湯飲みをはじめとした個性あふれる作品を製作。釉薬により松代焼独特の青緑の美しさをまとった作品が出来上がる1か月半後が楽しみである。
 

桜咲く初春の気持ちよい気候のなか松代を散策し、街の良さを再認識した。親睦を深めると共に気持ちもフレッシュでき楽しい時間を過ごすことができた。
(宮本忠長建築設計事務所・野々山修一)

 

平成26年度 第6回研修会

信州名匠会リレートークVOL.7
瓦職人の西宮氏が語る。瓦は日本の美を体現

開催日/平成27年3月25日
プレゼンター/松澤朋典氏(小谷屋根)

第7回リレートークは、茅葺き職人で小谷屋根(北安曇郡小谷村)社長の松澤朋典さんが話し手を務め、茅葺き屋根の現状や施工技術について語った。

 

松澤さんは、棟梁として手掛けた安曇野市内にある築150 年の民家の葺き替え作業の様子を、テレビ放送された際のDVD映像で紹介しながら解説。地元小谷村の茅場から集めた小茅(カリヤス)を束にして何層にも重ねて屋根の厚みを出していく葺き方を説明した。培った職人の技について「茅葺きの仕事は感覚が大切。仕上がりを常に頭でイメージしながら、目と手の感覚を頼りに葺いていく」と語った。

 

松澤さんは、小谷屋根の3代目で職人歴は10 年。今も現役の職人として伊勢神宮の仕事などにも携わる父・敬夫さんから仕事を学んだ。「建物の顔とも言える軒のラインにはさみを入れるときが最も神経を使う」とし、「何十年か後の葺き替えで(屋根が)解体された時に、後世の見本となるような仕事を残したい」と職人としてのこだわりを語った。

 

松澤さんは、小谷村で「茅むじん」と呼ばれる住民同士の茅相互扶助の仕組みによって守られている「牧の入茅場」も紹介。文化財の保存に用いる資材を供給したり、関係する技能者を育成する役割を担う県内では唯一の「ふるさと文化財の森」の指定(文化庁)を受けるなどして、住民らが協力して行っている「野火付け」や「茅刈り」など季節ごとの茅場の作業を説明した。今後は、子どもたちの茅刈り体験など、茅葺きの技術と文化を守り、後世に伝えるためのPRにも力を注ぎたいと意欲を見せた。

 

平成26年度 第5回研修会

信州名匠会リレートークVOL.6
瓦職人の西宮氏が語る。瓦は日本の美を体現

開催日/平成27年2月25日
プレゼンター/西宮登喜男氏(㈱綿内瓦工業)

第6 回リレートークは、綿内瓦工業(長野市)会長で瓦職人の西宮登喜男氏が、瓦葺きの施工技術などについて語った。

 

はじめに西宮氏は自社が手掛ける瓦工事の種類について触れ、「一般住宅が60%を占め、社寺仏閣が25%ほど。残りの15%は(歴史的建築物などの)復元工事で、ここ数年で急に伸びている」と説明した。建物に風情を醸し出す「古い瓦」へのニーズは高く、自社では「平瓦2万5000 枚、軒瓦700 枚、熨斗(のし)瓦2000枚ほどをストックしている」と話した。

 

復元の事例として西宮氏は、奈良県の瓦製造・施工会社で修業中の息子が職人として携わった「姫路城大天守」保存修理工事の様子をDVD映像で紹介。築城から400 年、昭和の大修理から50 年を経て、平成21年10月から今年3月まで約5年半をかけて進む大事業。8万枚もの軒先瓦の詳細な調査(破損状況・寸法・製造年代)から始まる屋根の復元作業の様子を見た参加者からは、「すごい」「気が遠くなりそうだ」といった声があがっていた。

 

西宮氏は、神城断層地震の後に、自身が撮影した写真をもとに、長野市内の住宅の瓦(屋根)の被害についても解説。
「15 年以前の瓦は被害が出たものもあったが、(施工技術が改善された)それ以降のものは、ほとんど被害が出ていなかった」と説明した。西宮氏は、瓦葺きの施工技術が進化し標準化が進んでいる業界の現状や、部分的な補修をしやすいといった瓦屋根の特徴を挙げながら、「日本の美を体現する瓦を、もっともっと使ってほしい」と訴えた。

 

平成26年度 第4回研修会

信州名匠会リレートークVOL.5
「木材のプロ」鎌倉氏が語る適材適所の使用

開催日/平成26年12月19日
プレゼンター/鎌倉 良収(㈱鎌倉材木店)

第5 回リレートークは、鎌倉材木店(長野市)の鎌倉良収氏が「木材のプロ」として、木の種類や性質にあわせた使い方について語った。

 

鎌倉氏は、「ヒノキを梁に使うのは無理がある。総ヒノキの家といっても実は主に用いられるのは柱と土台」、「長野ではスギは、あまり梁には使わないが九州や愛知などでは普通に用いる」、「マツは成長が早く耐力が強い」など、木の種類や性質に応じた使い方を紹介。「見た目のデザインにとらわれず、材の特性を知り尽くした上で、プロとして適材適所の使用を心がけている」と、こだわりを語った。

 

良い木材を製造するために欠かせない丸太の目利きのポイントについても説明。市場では、木の筋肉のような「アテ」や「節」、「芯寄り」といった部分を注意深くチェックしながら丸太を仕入れていると説明した。

 

また、耐久性や狂いなど木材の品質を大きく左右する乾燥技術についても詳しく解説。自社では、豊富な樹種に対応できる蒸気式の乾燥機4基によって乾燥を行っているとしながら、「乾燥で一番大変なのは樹液を抜くこと」と話した。

 

平成26年度 第3回研修会

「千曲市 荒砥城・知識寺」見学会

開催日/平成26年11月15日
師/千曲市文化財センター 寺島孝典主査

国指定重要文化財のお御堂等 
貴重な文化財を堪能

 

会員委員会 西澤嘉雄氏の企画で、千曲市の荒砥城・知識寺を千曲市文化財センター主査寺島孝典氏に案内していただいた。


清源山知識寺は、戸倉上山田温泉南西の山里に室町時代後半ごろ建立されたと考えられている。
15年ほど前に宮本忠長建築設計事務所(西澤嘉雄氏担当)が設計監理し改修された仁王門と内部の「木造金剛力士像」(共に市指定有形文化財)を見学、大御堂に向かった。
桁行三間・梁間四間の単層茅葺寄棟造りの大御堂は、国指定重要文化財で、組物の木鼻と呼ばれる突起の表面にある渦巻き2つが向かい合っている物は大変珍しいという。
また、軒先にある垂木が、正面は整然と並んでいるが、側面は途中から省略されてなくなってしまっている。


大御堂の内部には、これも国指定重要文化財の「木造十一面観音立像」、市指定有形文化財の「木造聖観音菩薩立像」「木造地蔵菩薩立像」「木造釈迦如来坐像」が安置されている。


特に「木造十一面観音立像」は、ケヤキの一木造りで像高301.5㎝の巨像であり、平安時代後半の作と伝えられている。

 

その後、平成7年にオープンした城山史跡公園では、この地方をおさめていた地方豪族「村上氏」の支族にあたる「山田氏」により築城されたと伝えられている「荒砥城」が復元されている。
肌寒い天候ではあったが、山頂から、千曲川・温泉街・善光寺平の眺めを楽しんだ。

 

平成26年度 研修旅行「東京木材会館・江戸東京建物園 他を見学」

東京-新旧名建築を体感するたび


信州名匠会 平成26年度研修旅行は、10月25日・26日に20名が参加して行われた。

 

今回は、何かと行く機会が多い東京。さすがに日本の中心、郊外も含め、まだまだ観るべきものがたくさんあることを実感した。

 

越中五箇山の合掌造りの建物等を移築し広大な庭園と合い持って、日本の伝統建築の心地良さを味わうことができる「うかい烏山」。

アーチ壁による自然との繋がりが心地よい斬新な建築「多摩美術大学 八王子図書館」。

木材の新しい可能性を感ずる「木材会館」。前川國男邸等貴重な建物が体感できる「江戸東京たてもの園」。

そして、青梅の自然の中に佇む「川合玉堂美術館」と、新旧さまざまな建築のすばらしさ・魅力を再認識した。

 

都市部大型建築での木材使用の可能性を感じる洗練された空間を堪能

 

木材会館は、東京木材問屋協同組合100周年記念事業として、木材流通の中心地である新木場に計画された。

木材需要の低迷する現在、都市部の建築において、いかに木材を使って安らぎを感じる魅力的な空間を作るか、地球環境に貢献できる建築が出来るかを探究したプロジェクトだ。

 


東京木材問屋協同組合事務局長の中原氏の案内で、7階ホールから1階和室まで館全体を見学させていただいた。

 

7階のホールは、30m近いスパンをコンピューター制御のNC加工で伝統の「追掛大栓継手」を施し、カシの木栓をはめ込んで繋がれ組み上げられた檜の12㎝角で組まれた大梁を架け渡している。

耐火構造が要求される大規模な建物で、可燃物である木材を構造体として使用するため、実際に火災が発生した際に火がホールの天井に届かないか、火の熱や煙で木梁に火がつかないか、といったあらゆるケースを計算して検証し防災の専門家の評定をとって実現している。

木梁と木梁の間に設けられた天窓から光が降り注ぎ、ホールと木梁を柔らかく照らし、心地よい空間となっている。

6階の小ホール・会議室、2階役員会議室、1階エントランスホール・ギャラリー・和室・茶室等、さまざまのところで、多くの木材が使われ、斬新なデザインが施されている。

これも、内装制限を、非難安全検証法で安全性を検証して実現している。


また、外部は外壁が炎上した場合でも上階に燃え広がることがないような構造とし、これも評定を受け木材を使用。

広場に相対する西面には、鉄筋コンクリート柱と木格子とで外部環境に対するバッファーソーンを計画。

都市生活の中に「木と暮らす」現代の縁側空間をもたらしている。
 

早朝長野をたち、「うかい烏山」に到着。

奥高尾の山里に合掌造りの集落。なつかしい日本の情景がそこに拡がる。

ゆっくりと日々の喧騒を忘れ庭園を散策、炭火焼き料理を満喫した。

 

その後「多摩美術大学 八王子図書館」「木材会館」を見学。夜は築地で新鮮な海の幸を囲み懇親を深めた。

 

 

二日目午前中、7haの敷地に現地保存が不可能な文化的価値の高い歴史的建造物を移築し、復元・保存・展示している「江戸東京たてもの園」を見学。

前川國男邸は、太平洋戦争開戦の翌年建てられたという時代背景を反映し、壁は黒く塗られ、瓦屋根を載せた和風のデザインだが、建築空間からディティールに至るまで、木造モダニズムの原点となる貴重な建物を体感できた。

 

平成26年度 第2回研修会 信州名匠会リレートーク VOL4

宮澤棟梁が「書院と数奇屋」語る
約束事の中でも工夫凝らす

開催日/平成26年9月25日
プレゼンター/宮澤邦夫 氏(宮澤建築)

第2回研修会は、リレートークの4回目として、昨年「信州の名工」の表彰をされた大工棟梁 宮澤郁夫氏に「書院と数奇屋建築」をテーマに話をしていただいた。


宮澤氏は、豪壮華麗な住宅建築様式としての「書院造り」の流れを汲みながら、茶室としての数奇屋建築が生まれたと説明した。
床の間や付書院、違い棚などを備えた格式ある書院建築が、豪華さを嫌う茶人の精神性を反映し、簡略化され質素になっていく中で数奇屋建築が確立。「その過程で大工の工夫が生まれ、匠の技術として、現代のわれわれまで受け継がれている」(宮澤氏)と語った。


茶室をつくる上でのポイントについて、「畳や入口、棚など、すべて目的や大きさが決まっていること」としながら、「動かせない約束事がある中でも、お茶事を楽しめる使いやすい茶室にする工夫を凝らして施主に喜んでもらうのが(大工の)腕の見せどころ」と語った。

 

自身が手掛けた数奇屋建築の事例も紹介。
複雑な形の根石(基礎石)と構造材の丸太が接する部分の形状をあわせたり、丸太と丸太を組み合わせる仕口加工の際に用いる「ひかりつけ」の技術などについて解説すると、会員からは、「やはり大工の技はすごい」と感嘆の声があがっていた。

 

宮澤氏は、「できれば施工者側もお茶を少しでもたしなむことが理想。立ち居振る舞いや道具に関する知識を持っていると、設計や施工をする上でも非常に役に立つ」と話していた。

 

平成26年度 第1回研修会

「野沢温泉スパリーナ」見学会

開催日/平成26年8月2日
師/西澤広智 氏(宮本忠長建築設計事務所)

野沢の新たな温泉リゾートを満喫

 

数年前解体された「野沢温泉アリーナプール」の跡地利用計画で宮本忠長建築設計事務所が設計監理し、本年7月にグランドオ-プンした「野沢温泉スパリーナ」を見学。新たに生まれた温泉リゾートを満喫した。


11時集合。はじめに雪室を見学。外気温が30度近いこの日、雪室内は5度、雪解け水の温度は3度。雪室内にまだ大量に保存された雪があること、そしてその涼しさに一同びっくり。300tの雪を保存して、雪の冷たさを熱源として利用し、農産物を低温貯蔵する冷蔵庫の役割と、この施設の既存部分であるレストラン・リラックスルームの冷房を行っている。


今回の増築では、1.7km離れた麻釜から70度の源泉をひき、① 完全かけ流しの展望露天風呂、② 以前からこの施設で使用されてきた22度の冷泉を利用した、18m×7.2m 深さが1.1mもあるプールのような大露天風呂、③ 疑岩の洞窟から滝が流れ落ち、海辺のようなプール、④ 噴水のあるじゃぶじゃぶ池 そして、⑤ 雪室が出来上がり、老若男女、ゆったりと楽しめる施設となった。

 

参加者の中には、お子様、お孫さんを連れてきた方もおられ、温泉に入り、滝のプールで水遊び・水泳を楽しみ、また、ルーフテラスでゆっくり食事をいただき、日ごろの疲れをいやす良い時間となった。

 

 

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