会報誌たくみ

 

定例研修会報告 平成27年度

平成27年度 第8回研修会

故宮本名誉会長追悼研修会・「緑艸舎」見学会

開催日/平成28年5月31日
師/西澤 嘉雄氏(㈲エヌ設計)

設計者と職人が一緒になって良い物を

 

5月の研修会では、亡くなられた宮本忠長名誉会長を偲び、信州名匠会の研修会等の場「セミナーハウス」として計画された宮本忠長建築設計事務所「緑艸舎(りょくそうしゃ)」の見学を行った。

 

研修会の初めに、宮本名誉会長自らがつくられた仏壇にお参り。その後、エヌ設計代表取締役所長 西澤嘉雄氏が、建築当時の宮本名誉会長の思い出を交えて「緑艸舎」について話した。

 

「緑艸舎」は飯山にあった旧川口家を解体移築した母屋が主。空間構成を守り、ディティールを完全に復元しながらも、飾りではなく機能性を持って日常に溶け込むように移築したという。西澤氏は「川口家は飯山藩の御殿医の屋敷であったことから、古民家とは違い、数奇屋的な部分がある。宮本先生の頭の中にあったのは桂離宮。解体はものの見事にできたがその後は悪戦苦闘し、まるで文化財の修復のようだった」と話した。「朝、『おはよう』と来た先生はヘルメットに長靴、手袋姿。確認申請をなんとか通るように掛け合ったり、毎日設計変更をしたり、大変だった。しかし、心を込めるから良いものができる。それを学んだ」と当時を振り返った。

 

そして「今にもあのドアを開けて『やあやあ西澤くん』と先生が入ってきそう。思い出だけではなく、それはつまり30年、空間が変わっていないということ。木造建築は蘇る面白みがある。100年前の建物が、移築してさらに30年。今見ると輝いている」と話すと、懐かしそうに目を細めた。

 

また西澤氏は最後に「緑かおる大地で雑草のように根を下ろし、建築を学ぶ学舎」が「緑艸舎」の名前の由来としたうえで、「宮本先生は職人の方々と一緒に移築し、つくられた。設計者と職人が一緒になって良い物をつくろうという精神、それこそが緑艸舎であり、それは今の名匠会につながっている」と話し、「そうした先生の遺志を継いでいきたい」としめくくった。

 

平成27年度 第7回研修会

松代—新御殿・旧文武学校見学・お花見・陶芸教室

開催日/平成28年4月16日
師/西澤嘉雄氏(㈲N設計所長)

松代にて、恒例の花見を兼ねた見学会・親睦会を行った。
「真田丸」にちなんでの、真田大博覧会開催中の真田邸(新御殿)・旧文武学校を見学。
伝統建築の耐震補強方法等について意見しながら、保存修復を終えた建物をじっくり鑑賞した。
その後、天気にも恵まれ、花まつりイベントでにぎわうお祭り広場で、松代の伝統芸能をバックに、お花見弁当をいただきながら、和やかなひと時を過ごした。

 

午後は、松代焼の松代陶苑に移動し、陶芸教室を行った。
毎年お花見と陶芸教室でお世話になった故・村越久子先生へ思いを馳せながら、各々1㎏の粘土をもとに約2時間、土と格闘。茶碗、湯のみ、お皿等、個性豊かな作品作りに集中した。
松代焼の独特の風合いに焼きあがった作品が展示される総会が楽しみである。






 

平成27年度 第6回研修会

信州名匠会リレートークVOL.11
【木製家具を語る】

開催日/平成28年3月24日
宮本忠長建築設計事務所
プレゼンター:中村 光敬氏(㈲中村木工所)

中村木工所の中村光敬氏は、そもそも建具とはどういうものか、特性の異なる多彩な材をサンプルとして参加者に触れてもらいながら、木製建具職人の仕事を語った。

 

建具とは、建物の開口の仕切りで「動くもの」であり、一般的に建物の中で建具以外に動くものはない。
つまり、それだけ建具は丈夫で、かつ正確で精密な製作が求められるという。建具の機能としては、出入り口(ドア・襖)・通風(網戸、葦戸(関西で良く用いられ、萩や竹のものが多い))・遮音・防火・防犯・装飾といったものが挙げられる。次に木製建具の材料として、中村氏にサンプルを回してもらい解説してもらった。ヒノキ・ヒバ・スギ・スプルース・マツ・タモ・ナラ等々、それぞれどのような使い方が適しているか、堅いか柔らかいか、水に強いか弱いか、実際に木に触れながら様々な特性を感じ取ることができた。

 

建具材は精度の高い製作技術が求められるため、材料も狂わない質の良いものが必要で、価格は一般的な建材の10倍にもなる。昔の建具材は高さ175㎝が標準だったが、現在はサッシ高さに合わせて大きくなってきており、大きくなればそれだけ材料に求められる質、要求される製作技術が高くなる。中村氏は「(要求される精度が高ければ)なおさら気をつけなければならない」と、まさに職人としての心遣いを語ってくれた。

 

中村氏は松本市で実際にあった事例と共に、木表と木裏について説明した。それはある学校の机にカラマツを材料として用いたのだが、ササクレが出てしまい、その後カラマツは使用禁止になってしまったというエピソードだった。原因は材ではなく、木裏を机の表に用いてしまったからだと中村氏は語る。木裏はササクレし易いという特性があり、工業製品として製作すると、木表と木裏を分けることが難しい。建具製作においても木表・木裏の概念は重要で、これを誤ると反りが大きくなって建具が狂ってしまう。

 

また製作において重要なのが、建具寸法である。伝統建築の建具寸法がどう決まっていたか。それは江戸時代初期の建築を受け持つ作事奉行の配下に甲良家と平内(へいのうち)家が代々世襲しており、この平内家が「匠明」を代々伝えてきたのである。匠明は木割書の原本ともいえるもので、各種の建物の設計方法や材料の揃え方、各部位の寸法比率を定めて基本部材の寸法を元に計算できるようにした指南書だ。他にも吉田五十八氏の建築では、障子の割で天井高さを決めていたというものもある。

 

そして、建具は機能性ばかりではない。技巧の粋を尽くした精緻な装飾を施した欄間や格子、その技術の高さを生かした工芸品など、芸術的な美を感じさせてくれるものがある。
それゆえ、飾り格子などはサンプルを作ることが難しく、作るための道具が必要になるため、取り返しがきかないと語った。

 

平成27年度 第5回研修会

信州名匠会リレートークVOL.10
【「大きなものだからこそ細かく」金属加工を語る】

開催日/平成28年2月25日
宮本忠長建築設計事務所
プレゼンター:黒澤忠氏(クロサワメタル㈱)

チタンやステンレス、アルミなどの金属を使い、パネルやカーテンウォールなどを扱うクロサワメタル(上田市)会長の黒澤忠氏に、金属加工や金属パネルの施工技術について、その技を伺った。

 

黒澤氏は、自身が手がけたモニュメントや建築物のサッシなどを紹介しながら解説。金属ならではの苦労として、工場でつくった大型のパネルが輸送時に車に載り切らなかったエピソードや、溶接を重ねる中で歪みなくつくる難しさなどを語り、「大きなものだからこそ、細かいところで気を使わなければいけない」と話した。

 

黒澤氏が記憶に残る仕事として上げたのは、隈研吾氏から依頼された軽井沢の建築に入れた窓枠や階段。「施工し、そこに名前が入ったことで、東京の仕事が多く入るようになった」と言い、「これ以来、軽井沢の物件の写真を見せると、技術的なところはフリーパスになった」と笑った。

 

黒澤氏は最後に「金属加工を依頼されるとき、できるだけノーと言わないようにしている。難しいものでも何とかやりようがある。ただ、そのためには例えば鍵などの金物がちゃんと動くように考えているのか、最終的にどういう形になるのかなど、設計者との間でコミュニケーションが重要」と話した。

また「金属加工は一つひとつ手作業にするとコストがかかる。
既製品をアレンジし、既製品ではないように見せることもテクニックで、何がなんでも自分たちでつくれば良いというものではない」と、匠ならではの金属加工のポイントを語った。

 

平成27年度 第4回研修会

信州名匠会リレートークVOL.9
【岩野商会2氏が内装(内装下地・仕上工事)を解説】

開催日/平成27年12月16日
宮本忠長建築設計事務所
プレゼンター:鳥羽秀和氏(㈱岩野商会) 保科章良氏(㈱岩野商会)

鳥羽氏は、内装工事のうち、タイル張りなど床の仕上げ工事について解説。良い仕上げにするため「下地の湿気対策に注意を払っている」とし、墨出しをして中央から張っていく施工方法についてもスライドを交えて紹介した。「強い太陽光が差し込むもとでタイル張りの作業をしていたら、後で縮んで目すかし状態になってしまい、あわててやり直した」など昔の失敗談も披露して、笑いを誘った。「最近はウッドタイルがはやっている」と製品のトレンドも紹介した。

 

保科氏は、壁と天井の施工について説明。耐火や耐震、遮音といったJIS製品を中心とする材料の性能について話した後で、鋼製野縁で下地をつくってボードを固定していく施工の流れを紹介した。また、地震災害などで天井の落下被害があったことから、特に公共建築などで要求される耐震天井については「専門の講習会を受けた人が施工す
るようにして、設計者に確認しながら作業を進めるように気をつけている」と話していた。

 

平成27年度 第3回研修会

「エヴァンゲリヲンと日本刀展」見学

開催日/平成27年10月29日
師/刀匠 宮入 恵氏(当会顧問)

鉄の展示会で開催されている「エヴァンゲリヲンと日本刀展」を見学し、当会顧問である刀匠の宮入恵氏に展覧会の内容と日本刀についてお聞きした。

 

日本刀は敷居が高いと思われがちだが、今回のようなコラボレーションにより近年では女性からの関心が高まっている。
日本刀は何が美しいのか、何を大切にしてきたのか、言葉だけでなく実物を見ることで、魅力に気づき若い年代からも支持されるように感じた。

私自身も初めて日本刀を見せていただいたが、日本刀にも様々な種類があることに驚いた。

会員のみなさんが、それぞれの「好み」を語り合う姿がとても印象的だった。

 

日本刀と建築業は異分野であるが、それぞれの工程に職人がおり、匠たちの力で一つの刀が仕上がる過程は、建築の分野にも通ずるものがあると感じた。

年々職人が減少している事態も、共通の課題である。長い鍛錬の期間を経て習得される技術と知恵を、若い年代が受け継いでいかなければいけないと感じた。
(中村明穂)

 

平成27年度 第2回研修会

信州名匠会リレートーク「外壁」の知識深める

開催日/平成27年9月17日
師/荒井孝明氏 (株)本久 
/// 大木 信氏 クリオン(株) 

会員がそれぞれの専門分野について話すリレートークの第8回は、「外壁材」についてお話しを伺い、情報・知識を深めた。

さまざまな外装材を取り扱う本久(長野市)の荒井氏がサイディングについて材質や特徴を説明したほか、同社と取引のあるクリオン(東京都)の大木氏が特殊な建築などにも用いられるALCパネルについて解説した。

 

荒井氏は窯業系、金属系、押出成形セメント板系といった材質の違うサイディングについて、それぞれの特徴を説明。

「新築戸建て住宅では窯業系が7割を占めるが、長野のような寒冷地では、軽くて施工性に優れ、凍害に強く断熱性も窯業系の2.4倍と高い、金属系サイディングの出荷も多い」などと話した。

また各サイディングメーカーが「フッ素コートや光触媒などの技術を用いて、雨によって自然に汚れを落とす機能に力を入れている」と紹介。外壁の工法にも触れ、「目地がなく意匠性に優れ、通気も取れる大型サイディングによる大壁工法が普及してきている」と話した。

 

大木氏は、東京スカイツリーの建設に自社製品を納入し、現場で施工にも携わった経験を映像で紹介しながら、ALCパネルの特性を解説。

スカイツリーの地下1階から第2展望台まで高さ4755mに及ぶエレベーターホール(円筒部)の内壁に100㎜厚のALCパネルを張り巡らせた工事を振り返った。

 

「400m超という異次元の高さは(自社でも)初めて。限られた工期の中で、風荷重、耐力など高い要求性能を満たさなければならない難工事だった」と語った。

地上で4階建ての建物に相当する高さの鉄骨ユニット(重量20t)を組み立て、それをタワークレーンでつり上げていく施工方法なども紹介。

「工事の終盤では東日本大震災が起きたが、パネルの脱落は1枚もなく安心した」との体験も披露した。
(関 卓実)

 

平成27年度 第1回研修会

降幡氏から民家の歴史を学

開催日/平成27年7月25日
師/:降幡 廣信 氏((株)降幡建築設計事務所当会 副会長)

民家の歴史について学ぶ研修会を松本市内の、かつて降幡氏が民家を再生した「館そば」で開いた。同会副会長で古民家再生の第一人者として知られる降幡廣信氏が講師を務めた。

 

会場は、降幡氏が中南信地域特有の「本棟造り」の古民家を改修し、そば店兼住居として再生した建物。会員や建築を学ぶ学生らが参加し、先生のお話をお聞きしたあと、参加者がそれぞれ自己紹介するなど和気あいあいと交流を深めた。建物を降幡氏に案内いただいた後、打ちたての大変おい
しいそばを味わった。

 

研修で降幡氏は、「民家」と「和風住宅」の成り立ちの違いを解説。民家のルーツが縄文時代の竪穴住居にあるのに対し、和風住宅は弥生時代の高床倉庫に端を発しているとした。

 

降幡氏によれば、民家は「土間+高床」のつくりを基本とし、気候条件など地方の特色を色濃く反映。具体例として本棟造りや五箇山集落(富山県南砺市)の「合掌造り」を紹介した。

 

一方、和風住宅は「玄関+高床」をベースとしており、平安時代の「寝殿造り」や桃山・江戸時代の「書院造り」の様式を継承しながら、明治時代には西洋文化の影響も強く受け現在に至っていると説明した。

(関 卓実)

 

 

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