会報誌たくみ

 

定例研修会報告 平成28年度

 

平成28年度 第7回研修会

松代 新御殿・旧文武学校見学・お花見・陶芸教室

開催日/平成29年4月15日
師/西澤 嘉雄氏(㈲N設計)

4月の研修会は、毎年恒例となっている松代での花見を兼ねた見学会・親睦会を行った。まずは真田宝物館を訪れて見学会。真田丸の熱狂冷めやらぬ中での見学ということもあり、多くの来館者で賑わっていた。約5 万点に及ぶ資料は見ごたえがあり、あっというまの2 時間だった。

 

お昼は松代城の桜をバックにお花見弁当としたかったが、あいにくの雨により門の下で雨をしのぎながらのお弁当に。
一風変わった空間での花見で、貴重な体験になった。

 

午後は、恒例となっている松代陶苑での松代焼体験を行った。今年で数回目という人も多く、手際よく粘土を各々の描く形へと変化させていく。すし用の皿、子どものお菓子皿、今年の作品は一工夫、二工夫されているものが多く、焼き上がりが楽しみだ。

 

平成28年度 第6回研修会

信州名匠会リレートークVOL.15
木製サッシュ・木製家具工

開催日/平成29年3月29日
師/山崎 慎一郎氏(㈱山崎屋木工製作所)

性能の見える化が普及の鍵

 

今回のプレゼンターは、オーダー家具の製造から木製サッシ市場に参入した山崎屋木工製作所の山崎慎一郎氏。山崎氏が木製サッシ市場への参入を決めたのは、ドイツ・ハノーバーの展示会でドイツ製の木製サッシに出会ったことだという。
ドイツで提唱されていた「持続可能性」をそこに見た。東日本大震災により、エネルギー政策を再考する中で、住環境における木製サッシの役割の高さを知ったためだ。さらに、地域材を使うことで地域経済が回るモデルにも感銘を受けた。
「自分が木でやりたかったのは、これかもしれない」。すぐさま本場から専用の加工機械を導入し、設計事務所とともに製品開発に取り掛かったという。

 

日本の市場については、「日本のサッシのうち木製は1%ほど。さらにそのうち6割が輸入製」と現状を紹介。「木製サッシ先進国のヨーロッパと比べ、日本は湿気が多い。材料や日差し、メンテナンスの方法などを考える必要がある」とし、日本に合った木製サッシのため、今も塗料などでの試験を重ねていると話した。

 

続いて「局所暖房の日本では、浴室のヒートショックによる死者が交通事故による死者数を上回る」とデータを取り上げると、窓にトリプルガラスを使い、サッシを木製にすれば家の中全体を暖かくすることができ、ヒートショックを少なくすることができると指摘。木製サッシの実物や、熱貫流率、気密性、水密性などの細かなデータを参加者に提示し、「性能の見える化が木製サッシ普及の鍵。子どもや孫の時代に環境が変わるように、木製サッシを広めていきたい」と話した。

 

後半の質疑では、コストや防火性能、サッシの塗料などが話題に。山崎氏は「トリプルを使った熱貫流率0.8w/m2/k台のドレーキップ窓は、どうしても価格が高くなる」「むしろ断熱性能の高い木の部分より、ガラスのほうが溶けてだれる」「現在もさまざま試験中だが、今はドイツのプラネットカラーなどを多く使っている」など詳細に回答し、リレートークを締めくくった。

 

平成28年度 第5回研修会

信州名匠会リレートークVOL.14
左官工事

開催日/平成29年2月22日
師/宮内 計臣氏(㈱宮内)

塗り上げる仕事こそ左官

 

左官工事の宮内計臣氏は冒頭で、「左官は『塗り上げる職種』のこと。芸術家ではない」と話すと、飛鳥時代から連綿と続き、伝統工法が確立した鎌倉末期や、庶民に広まった江戸時代、西洋建築を取り入れた明治・大正、クロス寄りになった高度経済成長期など、左官の歴史を技術とともに紹介。また自らが修復に携わった松代の寺町商家や善光寺の大勧進、作業を行った新宿歌舞伎町のゴジラなどの事例をスクリーンに映して説明した。

 

後半は「実はのりを入れないほうが強い。でものりを入れると塗りやすくなる」など素材や技について解説。漆喰をつくる過程も実際に見せて紹介した。また、自身も「大好きだ」という「こて絵」を紹介し、波ウサギや龍、唐獅子など、いずれも意匠に対応して火除けや厄除け、繁栄などの願いが込められていることを説明した。

 

途中、「こて絵には何かしら仕事をした左官のメッセージが込められている」と話した宮内氏が、修復の際にこて絵も直した事例などをスライドで見せると、参加者からは「やっぱり芸術家みたいだ」という声が上がり、それに対し宮内氏が笑いながら「いや芸術家じゃないですよ。塗り上げる仕事をするのが左官なんですから」と冒頭の話に戻って繰り返し答える場面もあり、リレートークはなごやかに行われた。

 

平成28年度 第4回研修会

信州名匠会リレートークVOL.13
鋼製建具:大型移動間仕切

開催日/平成28年12月21日
プレゼンター/米田 満氏(㈱山二) 

流動性・拡張性・雰囲気づくりに活用

 

総合建築資材サプライヤーの山二(須坂市)の米田満氏を講師に迎え、鋼製建具の大型移動間仕切(スライドウォール)について聴いた。米田氏は大型移動間仕切のメリットとして、人数に応じて配置することで部屋の大きさを変えられる流動性、部屋数を増やすことによる稼働率の向上、空間ごとの音漏れ防止、冬は閉め夏は開けるといった季節に応じた利用などを列挙。「つっかえ」として耐震性能を持つとし、京都国際会館に導入した事例では「阪神淡路大震災時に本体やレールに損傷が無かった」と話した。

 

移動間仕切導入のポイントについては「仕切る部屋の使い方を想定する」こととし、実際に失敗した事例を挙げて「設計段階から入れることを想定しないと、後付けで入れようとした時に建築の精度が低く、収まらなかったり、スライドの動きが悪くなることがある」と注意点を話した。

 

匠ならではの技として米田氏は、旅館の宴会場に導入した際に床の間を造作し、パネルと壁の見分けを付かなくした事例を提示。隣の宴会の声をわざと漏れるようにして「会場の盛り上がりが感じられる雰囲気づくりに活用した」と紹介した。

 

平成28年度 第3回研修会

「蚕都・上田市」見学会

開催日/平成28年11月19日
師/笠原 一洋氏(笠原工業㈱ 取締役会長)

/// 手塚 本衛氏(上田蚕種㈱ 取締役社長)

明治・大正の製糸業支えた建物を探訪

 

11月の第3回研修会では上田市の「旧常田館製糸場施設」「上田蚕種共同組合事務所棟」「信州上田真田丸大河ドラマ館」を訪問した。

 

午前中に訪れたのは「旧常田館製糸場施設」。国指定重要文化財で、今年8月には天皇・皇后両陛下が訪れた場所でもある。両陛下を案内した笠原工業の笠原一洋会長から当時の様子をビデオを交えてうかがったほか、明治時代に建築された木造土蔵造瓦葺繭倉庫や大正時代に建築された鉄筋コンクリート造陸屋根の繭倉庫などを見学した。また昼食時には両陛下がご休憩の際に飲まれたという桑の葉茶を参加者全員でいただき、両陛下が使われたという桑の茶碗に触る機会も得た。笠原会長からは「両陛下から『古い物を残すのは大変でしょうが、今後も残してください』とのお言葉をいただいた」などのエピソードをうかがった。

 

午後は「上田蚕種共同組合事務所棟」を見学。大正時代の事務所建築の典型といわれる木造二階建ての建物は、外観は洋風、内部は純和風。大正時代に建てられてからほとんど手が加えられておらず、市川崑監督の「犬神家の一族」など映画にもしばしば使われた。参加者は、風情のある建築を設計士や職人などそれぞれの目で楽しみ、全員集合した記念写真を撮影した。

 

その後は「信州上田真田丸大河ドラマ館」へ移動。明治・大正時代に「蚕都」として栄えた上田の歴史に続き、戦国・江戸時代の歴史に触れ、研修会を終えた。

 

平成28年度 第2回研修会

信州名匠会リレートークVOL.12
石工事の奥深さと魅力を知る

開催日/平成28年9月28日
師/犬飼 栄治氏(㈱シナノ大理石)

今回で12回目となるリレートークは、石工事についてシナノ大理石の犬飼氏に、宮本忠長会長との思い出の作品を交えながら石の奥深さを語っていただいた。

 

まず石についての知識、原料・分類・特徴等、詳しく解説していただいた上で、使い所・仕上・工法等の説明を聞き、石についての根幹を成す知識を学んだ。その中で「同一の原料は世界に二つと無く、人類の歴史よりも古いものを扱っているため、同一物の代替えが不可能」と犬飼氏は語る。言葉から一つひとつの石に込める想い、情熱に触
れることができた。

 

次に犬飼氏が手がけた数々の石工事を写真と共に紹介した。中でも「大理石の切り出し」、「軽石による断熱」が会場の驚きを誘った。

 

大理石はつき合わせたとき、どれだけ一枚物に見えるかが重要。切り出す角度、場所等の綿密な検討によって、流れるような美しい大理石の模様になる。まさに匠の技を紹介していただいた。

 

さらに軽石による断熱材としての使い方に一同興味を惹かれた。自社を実験建物としており、外壁(サイディング)の上から軽石を貼っている。軽石を張るだけで大きく断熱効果が上がったと犬飼氏は語る。「凍害により石が割れてしまうのでは」と懸念の声が上がったが、実際に凍るのは表面のみで、多くの空気層により断熱効果で中はほとんど凍らない。重量も軽いため、改修工事などで活躍できるのではと期待が高まる。

 

最後に宮本忠長会長との思い出の物件を紹介していただいた。信濃毎日新聞本社前にある石のオブジェ「小鳥の水飲み場」。上面には両手の手のひらが彫ってあり、雨で水が溜まるデザインが施されている。通常は冷たく硬い石だが、やわらかい手のひらが優しく水をすくいあげているかの様なデザインは、「宮本忠長氏を表しているようだ」と語った。

 

平成28年度 第1回研修会

「軽井沢発地市庭」見学会

開催日/平成28年7月23日
師/加藤 健太郎氏(㈱宮本忠長建築設計事務所 設計監理主管)

/// 齋藤 潔氏(齋藤木材㈱ 取締役建築事業部長)

うねる屋根に設計の妙と集成材の技
 

平成28年度第1回目となる研修会は、今年4月にオープンした「軽井沢発地市庭(ほっちいちば)」で開催された。

 

同施設は宮本忠長建築設計事務所の設計監理。
設計のポイントの説明を聴きながら施設を見学し
た後、施設内の会議室で、宮本忠長建築設計事務所の加藤設計監理主管から、プロポーザル時の計画案や写真を用いて、計画概要・設計コンセプト、建物の特徴等について説明していただいた。

 

また同会会員で同施設の工事に協力した齋藤木材工業 建築事業部長の齋藤氏から、施工(集成材・木工事)で工夫した点や苦労した点を聞いた。

 

軽井沢発地市庭の建物は、南軽井沢の風景と呼応するように屋根・軒先のラインがうねるダイナミックな大断面の集成材を使用した建物だ。集成材の製作・運搬可能な最長が18mのところ、同施設のスパンは19mのため、中央で金物が目立たない工夫をしながら接合している。

 

見学を終えた会員からは「CADで図面はつくれても、実際に施工するのは大変だろう」という感想が出た。齋藤さんは「施工を担当した新津組さんがしっかり管理してくれ、スムーズに済んだ。集成材を使った建物として、当社の中でも代表的なものになった」と話した。

 

避暑地の気持ちの良い気候の中、土曜日で賑わう「発地市庭」で、新鮮な野菜・果物を買い求めたり、食事をしたり、参加者は各々自由に楽しんだ。

 

 

↑このページの上部へ