会報誌たくみ

 

定例研修会報告 令和元年度

 

令和元年度 第5回研修会

リレートーク 曳家

開催日/令和2年2月20日(木)
プレゼンター/金田勝良氏(株式会社 金田工業所 )

建物の気持ちを心で聞くために

「いい耳と目」を持つ

 

祖父の代から続く曳家職人の三代目である金田工業所の金田勝良氏を講師に迎え、曳家仕事について語っていただいた。

 

金田氏は、今まで曳家を行った建物を、実際の工事映像を見せながら解説。建物を動かすときに油圧や電動ウィンチでは建物の動きが伝わってこないため、手でウィンチを巻くこだわりや、建物を水平に保つため地盤がどの程度沈むかは経験で予測するといった匠ならではの話を披露した。金田氏の職人技と建物が動く迫力ある映像に参加者からは驚きの声が上がった。

 

最後に参加者からの「今まで失敗したことはありますか。」という質問には「一度でも失敗したらこの仕事は続けられない」と答える金田氏。「お施主さんの要望だけでなく、建物の気持ちも心で聞くため、職人はいい耳と目を持たねばならない」、「1から10の工程を順番どおりしっかり行うことが事故を起こさない秘訣」と、曳家仕事に対する心構えを話し、リレートークを締めくくった。

 

令和元年度 第4回研修会

リレートーク 大工技術の継承

開催日/令和元年12月19日(木)
プレゼンター/堀 誠氏(建築工房アカシヤ)

仕事は手間をかけて、慌てず、丁寧に

 

今回のリレートークでは、建築大工として活躍する建築工房アカシヤの堀誠氏を講師に迎え、堀氏の生い立ちや大工修行時代に学んだこと、近作について語っていただいた。

 

父親が大工だったこともあり、自然と建築大工の道に進んだという堀氏。修行時代には二人の師と出会った。

一人目の師匠には木組について深く教わり、二人目の師匠には「手間がかかってもきちっとやれ」、「仕事は慌ててはいけない」という、今に至るまで大切にする教えを受けたという。
 

近作として箱清水公民館と信濃町の東京大学生産技術研究施設を紹介。堀氏はこのような仕事をする一方で、最近は大工技術を活かした仕事の依頼が減少傾向にあり、若い世代に技術を継承する機会が減っていることに言及。
工事中の写真を見て、金物に頼らない堀氏の丁寧な仕事技に参加者から感嘆の声が上がった。
最後には仕口や継ぎ手のモックアップを用いて解説し、大工技術の面白さ、そして大工技術を未来へ継承していくことの大切さを参加者に伝えた。

 

令和元年度 第3回研修会

会員の仕事場拝見 中村木工所

開催日/令和元年11月16日(土)
師/中村光敬氏(当会会員)

繊細な木製組子の世界を学ぶ

 

第3回研修会では、「会員の仕事場拝見」と題し、建具の職人の中村光敬氏(中村木工所)の工房を訪れた。中村氏の案内で、木製組子の制作現場を見学し、実際に組子細工を体験した。

 

制作現場では、現在制作中で、県外の一流ホテルのフロントに設置される組子について話しを聞いた。制作している組子は、全13枚で並べると高さ2.4m・幅16mの規模。

中村氏は「ひとつひとつの部品は機械加工が中心だが、残りは手作業」といい、「数ミリ寸法が違
うだけでも組付けができなくなる」「湿度の管理も大切」などと留意点を説明した。制作期間は6カ月で、1カ月で3枚前後をつくるペースだという。

 

工房内にある、花狭間(はなざま)と呼ばれる組子を見学。
組子に花模様の透かし彫りを施したもので、中村氏は「銀閣寺(京都府)や大笹原神社(滋賀県)などに設置されているものと同じ柄」と紹介した。

 

組子細工の制作体験では、中村氏の指導のもと、胡麻柄の組子コースターを組み立てた。

参加者は悪戦苦闘しながらも、童心に戻ったように無我夢中でつくっていた。

 

令和元年度 第2回研修会

「県立武道館」現場見学会

開催日/令和元年8月24日(土)
師/仙田 満氏(㈱環境デザイン研究所 会長)

/// 加藤健太郎氏(㈱宮本忠長建築設計事務所 副設計長)

大屋根など設計の妙を見る

 

第2回研修会では、佐久市の県立武道館の現場見学会を実施した。
佐藤-竹花組特定JVの佐藤克志工事長から工事の進捗や概要などの説明を受けながら現場を回った。

 

見学前には土本会長が「大屋根が周囲の風景と重なる設計が見事」と武道館を紹介すると、続けて環境デザイン研究所-宮本忠長建築設計事務所JVの仙田満会長が「建物はRC造とS造がメイン。

しかしW造も尊重した建物を伝えられれば」「主道場の大屋根はSとW造のハイブリッド県産材を使いながら日本の伝統を残す。
天井は高さがあり、コンサートなども行えるように多目的に使える」「武道は体幹が大事。
武道館も中心に柱(廊下)を持ち、回遊性を持たせた」などポイントを説明。
参加者らは両氏の言葉を参考に見学した。

 

同武道館は今年度2月に供用開始を予定。国体をはじめ各種武道大会の開催のほか、武道以外の他のスポーツやコンサートなど文化活動、さらには災害時の地域の避難所、佐久地域の「物資拠点」などの利用を想定し整備を進めている。

 

令和元年度 第1回研修会

土本先生のお話「世界の棟持柱を追う調査」を研修

開催日/令和元年7月31日(水)
師/土本俊和氏(当会会長・信州大学工学部教授)

土本先生が「棟持柱」を語る

令和元年度 第一回の研修会は、本会会長の土本先生から「棟持柱」をテ ーマにお話しいただいた。
歴史的な木造建築の一典型であり、日本建築で代表的な形とされる棟持柱だが、この構造について「伊勢神宮や仁科神明宮など神社建築だけでなく、さまざまな形で、世界各地で見られる」とし、
スライドとともに世界の事例を紹介した。
その射程は、近くは茅野市にある寒天蔵から、海を渡って韓国・ソウルの寺院、台湾、インド、さらにアジアを離れオーストリアの民家園、ついにはユーラシアを飛び出してメキシコまでと縦横無尽だ。
土本先生は、時にジョークを交えつつ、時に風土や旅情を伝えながら、日本だけでなくアジア、ヨーロッパ、さらには北米、南米など、先生が自
ら足を運び発見した「棟持柱」をリポートした。

 

加えて「『インドに棟持柱がある』という話はないが、行ったらそこかしこにあった」とし、インドでの生木を使った棟持柱構造や、さらには木でなく石を使った棟持柱構造の写真も提示するや、会場からは驚きの声があがった。

 

棟持柱構造の原形について、またその伝播、そして変容といった姿をわかりやすく、また面白く紹介したお話となった。

 

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