会報誌たくみ

 

定例研修会報告 令和4年度

 

令和4年度 第7回研修会

中野市民会館リノベーション工事 現場見学会

開催日/令和5年5月13日
師/山田設計部長(株式会社 宮本忠長建築設計事務所 )

/// 出澤監理副主管(本荘監理副主管)

/// 村上工事所長(中野土建株式会社)

第7回研修会は、リニューアル工事が進む中野市民会館の現場を見学した。

既存の会館をいかに生かしてリニューアルするかを課題に行われたもので、設計を担当した宮本忠長建築設計事務所の担当者が工事のポイントを説明した。

 

リニューアル前の会館は、中山晋平や高野辰之らを輩出した同市において長く音楽家に愛された施設として内装は豪華だったものの、築後50年以上が経過し、雨漏りや残響が課題で、耐震性能の確保も必要とされ、現代の演奏会会場に求められる水準を満たしていなかった。

リニューアルにあたっては、参考となる建築当時の図面が存在せず、既存の空間と意匠を生かして耐震補強を行うもので、「実際に壊してみないと分からない中、チャレンジするハードルは新築よりも高く、非常に困難な仕事だった」という。

 

元は1000席あった客席を800席に減らし、以前はホールを通過しないと上手と下手間の行き来が出来なかった状態を、楽屋と廊下を設けることで解消。音響面では、ひだのある壁にしてコンクリートの質量を増やし、客席一つ一つの吸音効果も要素として考慮した。

 

見学時、大ホールに設けられた足場は天井まで届く高さにあり、転落防止や壁との寸法にも気を遣い、工事が進められていた。

工事を担当した中野土建の現場担当者は、「仮設計画に苦労した。材料の搬入計画も考慮に入れて作業の高さを決めた」と報告した。

 

令和4年度 第6回研修会

国宝旧開智学校校舎 耐震改修工事・松本館 見学会

開催日/令和5年4月8日
師/藤松 幹雄氏(藤松建築設計室 所長・当会会員)

/// 宮内 計臣氏(株式会社宮内・当会会員)

/// 笠井 健一氏(ハシバテクノス株式会社)

/// 川上 恵一氏(株式会社かわかみ建築設計室・当会会員)

第6回研修会は、松本市の国宝旧開智学校の耐震対策工事の現場を訪れた。

参加者らは、左官仕上げや耐震補強工事中の壁、塔屋や屋根裏の様子を見学し、施工担当のハシバテクノスの担当者 笠井健一氏と左官工事を手がけた宮内計臣氏の説明に耳を傾けた。

 

工事は、壁の補強にあたり、壁漆喰の内部に構造用合板による耐力壁を設け、タイロッドで耐力壁の浮き上がりを防ぐ工法を採用。

また、特に耐震性能が低いとされた塔屋については耐力壁と鋼製ブレースを設置し、構造用合板による水平構面補強を行い、「極力、元の状態に戻るように施工している」とした。

 

宮内氏は、「補強工事をするために壊した壁は、新しい土を加えて再利用している。昔からの知恵で、壁には剥落防止のため『下げ苧(さげお)』を入れている」と紹介。

また、隣接する開智小学校の児童が、旧開智学校の歴史を話してくれて「この建物がとても松本市民に愛されてきたことを再確認した。皆さんの期待に応えていきたい」と話していた。

 

旧開智学校の校舎は1876年竣工、2019年に近代学校建築として初めて国宝に指定された。21年から始まった耐震対策事業では耐力壁、基礎、水平構面、塔屋を補強する耐震補強工事と剥落した外壁漆喰などの修理工事を実施。24年秋の完成が予定されている。

研修会には30人以上が参加。見学後には松本城周辺を散策し、国有形登録文化財の松本館で昼食を取り、会員同士の交流を深めた。

 

松本城周辺 見学とお花見
松本館「鳳凰の間」 見学と昼食会

 

旧開智学校の見学後は、川上恵一氏と藤松幹雄氏の案内のもと2班に分かれて、松本城周辺のお花見を兼ねて散策。松本城城下町の復元図を手に取りながら、過去にあったお堀の位置や、建物の正面部分に洋風デザインを施した「看板建築」を見て回った。

 

その後、割烹・松本館の旧館大広間「鳳凰の間」で昼食。女将の宮澤裕佳理さんから、国の登録有形文化財となっている旧館建物の歴史などを聞き、施設内を見学させてもらった。

鳳凰の間の天井中央には「百花百鳥」が配されており、圧巻の内観だった。

 

降幡廣信副会長は、松本館について「東京の目黒雅叙園の内装を模して造られており、お客様を心から『もてなす』という表現がされている建物。建物の内装もそうだが、お料理にも、料亭の『もてなす』という気持ちが表れている」と評した。

 

令和4年度 第5回研修会

会員の仕事場見学会(株)ミツルヤ製作所

師/祢津 吉通氏(株式会社ミツルヤ製作所)

/// 大橋 謙太氏(アイカ工業株式会社)

第5回研修会はミツルヤ製作所の祢津氏のご協力で、工場・ショールームを見学させていただいた。また、アイカ工業大橋所長にメラミン化粧板等、家具の面材やカウンターを中心にお話をしていただいた。

 

研修会前半は公民館にてアイカ工業の建材事業の中で代表的な商品であるメラミン化粧板についてプレゼンしていただいた。

メラミン化粧板とは、紙に熱硬化樹脂を含侵させ高温高圧で成型した厚さ0.4~1.2mmの化粧板であり、合板に化粧紙を張り合わせたポリ合板と違い、強度が強く意匠性に優れた素材。またメラミン化粧板を用いたカウンター、ポストフォームについても様々な事例を用いてご説明いただいた。

 

研修会後半ではミツルヤ製作所の工場を見学させていただき、収納スペース、テーブル、カウンター等の生産システム、制作過程から材料のストックヤードまで様々な家具製作現場の裏側を見学させていただいた。

さらにミツルヤ製作所の工場では家具製作現場だけでなく金属製品の加工場もあり、ミツルヤ製作所の幅広い事業内容を知ることができた。

また工場と併設されたインテリアショップ、+VITAにて自社工場で製作されたオーダー家具の一部も見学させていただいた。

 

令和4年度 第3回研修会

リレートーク 建築資材・地場産木材の現状と今後

開催日/令和4年10月26日
師/高見澤 正孝氏(株式会社カネト)

/// 勝野 智明氏・勝野 泰平氏(株式会社勝野木材)

令和4年度第3回研修会は、25回目となる会員リレートークで、カネトの黄氏が企画。新型コロナの感染対策により会場を長野市柳原交流センターに移して開催された。

 

前年のウッドショックの影響は落ち着いた一方、建築資材・設備の不足や高騰は前年以上に顕著となる中で、カネト代表取締役社長の高見澤正孝氏が最近の建設資材の状況について説明。

 

ウッドショックによる外材の高騰を受けて注目される地域材については、勝野木材代表取締役の勝野智明氏が、特に全国でも有数の品質を誇る木曽ヒノキを中心に話をされた。

 

勝野氏は、日本は森林率が世界2位であるにもかかわらず、戦後の政策でこれまで外材産業として展開されてきたとして「地球の裏側から来る木材の方が安いという事態がずっと続いた」と指摘。世界で最古(法隆寺)、最大(東大寺)、最高層(東寺五十塔)、最大床面積(東本願寺御影堂)と世界でも有数の木造建築がいずれも日本国内にあることを紹介し、「日本は木の文化」として建築用木材の国産回帰を強く訴えた。

 

その上で、日本の住宅の平均寿命がヨーロッパやアメリカと比べて極端に短い現状を憂い、同社が扱う木曽ヒノキについて「物理的強度」「比強度」「耐候性」に優れていて住宅の資産価値向上につながるとした。

 

令和4年度 第2回研修会

置屋根・土壁・伝統工法『力石の家』見学会

開催日/令和4年9月17日
師/小坂浩一氏(小坂建設株式会社)

木が持つ変形性能と復元力を活かす柔構造を学ぶ

 

第2回研修会は令和3年度“信州の木”建築賞の優秀賞に選ばれた「力石(ちからいし)の家」を見学した。


当会会員の小坂浩一氏を講師に、研修会前半は坂城町の中心市街地コミュニティセンターを会場に、小坂氏が「力石の家」を建てる際に骨格とした「伝統構法による家づくり」について講演した。

 

小坂氏は「ヒノキは伐採後200年かけて強度を向上させ、さらに1000年以上かけて伐採直後の強度に戻っていく」とした。

さらに、阪神大震災や東日本大震災でも多くの木造建築が残ったことに触れ、昔ながらの伝統建築について「木が持つ変形性能と復元力を活かした柔構造とすることが地震に対する安全性の基本。金物に頼った剛構造には限界がある」と指摘された。

 

研修会後半は「力石の家」に移動し、見学会を快く受けていただいた施主のご家族と小坂氏による説明を聞きながら、住宅を見学させていただいた。

 

家づくりにあたっては、夏の暑さへの対応や置屋根へのチャレンジとして屋根の浮揚力に難渋したことなどが小坂氏から語られ、施主のご主人からは、伝統構法による家づくりにあたり、知識を一から学んだ過程についてご説明いただいた。

 

 

 

 

令和4年度 第1回研修会

信州大学繊維学部施設
(真綿・蚕糸館、講堂、貯繭庫、旧千曲会館)見学会

開催日/令和4年7月16日
師/土本俊和先生(信州大学工学部建築学科教授・信州名匠会会長) 
/// 羽藤広輔先生(信州大学工学部建築学科教授) 

繭をイメージした設計コンセプトの表現を現場で学ぶ

 

令和4年度第1回研修会は令和3 年6 月に竣工した、信州大学繊維学部(上田市)のキャンパス内にある真綿・蚕糸館、講堂、貯繭庫、旧千曲会館を見学した。

 

研修会前半は信州大学工学部建築学科の土本俊和教授(信州名匠会会長)と羽藤広輔教授のお二人が共同で設計した真綿・蚕糸館を、お二方にご説明いただいた。

 

真綿・蚕糸館は、一般財団法人日本真綿協会からの申し出を受け、寄贈された施設で、繭をイメージした設計コンセプトをもとに設計された。
建物外観は打放しコンクリートとすることで、繭の包皮のようなイメージを連想させる。

また型枠の杉は内部に回る螺旋状スロープと同じ勾配(1/12) をつけており、入口上部には繭を3 つ積み重ねた形をモチーフとした窓のある意匠となっている。

 

建物内部では、1F から2F まで螺旋状のスロープが回っており、スロープを巡りながら真綿や蚕糸に関わる技術や文化を体験できるスペースが配置されている。

1F 中央に八角形に面取られた「棟持柱」が6 本配されている。棟持柱は土本俊和教授が長年研究対象にしている分野で、棟持柱を原初とした建築の歴史は真綿の歴史にも重なるとのこと。

またこの棟持柱は長野県産のカラマツを使った集成材で柱下部は四角形に近い形で成形し、上部に行けば行くほど細く、八角形が強調される形の柱となっている。さらに1F 中央には棟持柱をモチーフとした八角形を基本形としたオリジナル家具が設置されている。

 

研修会後半は上田市蚕糸専門学校設立時の歴史を色濃く残す講堂、貯繭庫、旧千曲会館を見学し、当時の建築様式や改修方法ついてご説明いただいた。

 

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