会報誌たくみ

 

平成23年度通常総会 記念講演会「歴史から学ぶ」

 

◆管理されてきた小布施の栗
小布施町は、南西の斜面に高山・須坂、小布施は北西に位置しています。
高山・須坂側の斜面は、最近、世界でも有数のブドウ酒用のブドウの適地になってきました。
しかし、北西の小布施はブドウには適さない。
栗には最適地です。
小布施町では、室町時代から栗の栽培が始まりましたが、注目すべきは、すでに江戸時代、この小布施の扇状地の中でも、栗を植えることのできる場所というのは限られていて、幕府の管理を受けていたという事実です。

 

フランスのボルドーにあるメドック地区が世界で初めてワインの等級を設定したのが1850年代。日本は幕末の頃です。そして、等級の高いブドウ酒用ブドウの作付地は限定されていました。
それに対して小布施では1600年代、栗は扇状地の中核どころでしか作ってはいけないと決められていたわけです。
手前の千曲川に近いところには沖積層がありますから、栗の収量はあります。しかし、水分が多すぎて良い栗にはならない。さりとて扇状地の上の方では、今度は水が少なすぎます。
そういうことで中盤部分だけが許されました。

 

面白いのは、この小布施の中でも千曲川に近い、北の方に押羽という集落があります。
ここには昔から「栗を植えてはいけない」というタブーがありました。
昔、神様がこの村を通りかかったときに風が吹いて、栗のイガが神様の目に入り、目がつぶれてしまった。それ以来、押羽では栗を植えてはいけないと言われてきました。
今から30年くらい前、私は30代前半でUターンをしてきたばかりの頃でしたが、その押羽の集落に呼ばれる機会があって、「そんなタブーは迷信ですよね」と聞いたことがあります。
すると、お年寄りから本気で怒られました。
「馬鹿を言え、明治何年にはこんな不幸な目に遭っている。大正時代はこうだった」と。
証拠となるような話を5つも6つも挙げて、「したがって押羽で栗を植えてはいけない」と。
タブーとして伝わっているのは、やはり収量は多いけど、味は悪いということなのでしょう。

 

ですから、私はフランス人に行き会うと、
「なになに、フランスは19世紀になって良いワインのための畑の制限をやった。小布施はワインこそ作ってないけれども、栗の味が良い、そういうもののために、植える場所を限るようなことを今から400年も前からやっている」と吹聴しているわけです。

 

日本の農業は、本当の高級品とは何かということを、きちんと考える時期にきているのではないでしょうか。いまや魚沼といえば、コシヒカリさえ植えておけば飛ぶように売れる。実際の生産の3倍くらい売れているという話を聞きます。
ある面では江戸時代と比べて、遅れたことをやっています。昔は本当に馬鹿になりません。
「歴史を学ぶ」ではなくて、「歴史から学ぶ」。あるいは「歴史に学ぶ」。
そういう時代に入ってきた。そんな感じがするわけです。

 

◆歴史が貌をもたげる時代
先頃の3月11日の大地震以来、古い地図が飛ぶように売れています。というのは、古い地名には、過去の土地の情報が入っているからで、そういうことで売れているそうです。
実はそれよりも数年前から「歴女」なる、歴史に興味を持つ若い女性が出てきて以来、古地図というのは売れていました。今回の地震で拍車がかかったわけです。

 

ただ、古地図といっても、江戸時代の地図は主に切絵図といわれる製法の絵図ですが、残念ながら城下町のものが多く、小布施や長野のような城下町でないところはほとんどありません。また、同じ城下町でも松代のように、まったくの武家屋敷ばかりの城下町で、商業的に発達しなかったところもそんなに残っていません。
県内では松本のように城下町である以上に商業都市でもある、松本城下の切絵図というのは多く残っています。
こういう切絵図と現在の地図を重ねて散歩するということが、いま流行っています。
NHKが「ブラタモリ」という優れた番組をやっておりました。
あれもそうした時代の流れと、タモリ個人の造詣がマッチして、あのような番組になったのだろうと思います。
東京、江戸を中心にやっていましたが、昔の図面が豊富ということもあるのでしょう。さらに江戸の町は武蔵野台地の末端で、非常に土地の起伏が激しい。都市を演出しやすい町だということもあったでしょう。

 

「ブラタモリ」や、最近の例でいえば、「仁」というテレビドラマも、原作は漫画ですが、話題になりました。
「仁」も、神田の聖橋辺り、順天堂大学や東京医科歯科大学、そして江戸城の外濠であるあの神田川がしっかり残っている。そういうところから連想した物語ではないでしょうか。
原作者はあの辺の土地をイメージして作った。そんな気がするわけです。
ある面では、歴史というものが、ずいぶんと現代に貌をもたげる良い時代になってきたというのが実感です。

 

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