会報誌たくみ

 

平成23年度通常総会 記念講演会「歴史から学ぶ」

 

◆田舎の美しさとは
こうして始めた修景事業ですが、進めるにあたっては、時間軸、歴史軸、そして地形。こういったものをきっちり織り込んでいこうということになりました。
これらを読み込んだ建築、都市計画でないと意味がない。
それから、先ほど壁の序列について触れましたが、建物群のコードをきっちり読み込まないといけない。

 

小布施は町並み修景という場合、「まち」の字に、「町」という字を使います。「街」とはせず。
これも意味のないことではなく、これは、田舎の美しさとは一体なんだろうということにつながります。
ある面では、街場と在郷のメリハリが大事なのではないか。
進める事業は街場の事業であるけれども、多分に周辺の農村部のことも考え、あるいは農村部の屋敷建築群の美しさ、そういったことも広く世の中にアピールしながらやっていこうと。そうなりました。
農村集落に特徴的な屋敷建築と、街場における町屋建築、日本中の建物はこの二つでできあがっていると言っても過言ではない。

そういう目で東京を見る。そうすると驚くべき事に、たいてい町屋建築でなければならないところが、少し屋敷建築っぽい特徴を持っていたりします。
その一番顕著な例が霞ヶ関です。昔、旗本の屋敷だったところを強制収用して造ったものです。いまの建物は五代目か六代目でしょう。
なんとなく昔の流れが残っていて、省によっても違いますが、多くは独立の建物です。
しかも、建物が徐々に大きくなっていったために、建物が敷地いっぱいに建っている。
敷地のフェンスがあり、建物があるという点では屋敷建築の面影を残しています。

 

その逆が青山通り、246です。
元々そんなに集積度が高くなかったから、青山学院大学を見れば分かるように、最初は屋敷建築でしたが、だんだん町屋建築になってきました。
そういう動きが定着し、いまは非常に高密度の通りになっています。
しかし、時代に逆行するビルもある。国連大学ビルと文部科学省がつくった児童館です。
止せばいいのに、児童館には前庭をつくった。
ですから町屋建築街に再び屋敷建築を持ち込んだ、時代に逆行した建物でもあります。
したがって、町屋建築、屋敷建築の一つのコードの見方というのは、何も田舎の中だけではなく、東京の中でも、そういう目で見るといろいろ面白いものが見えてくるということです。

 

◆使う庭の美しさ
その次に重視したのは庭です。
「庭」と一言で言っても、「観賞用の庭」と、もう一つ、農村で大事なのは「使う庭」です。
この使う庭の美しさをもう一度、認識してほしいのです。具体的に言うとどういうことか。

 

たとえば、くぐり門があって、入った右側に納屋があります。納屋にはたいてい庇があって、雨の日はそこでなんらかの農業に関する作業をやる。何か農産物を干したりする干場であったり。それから門を入ったすぐその前の使う庭は、晴れた日の作業場です。
入ったその最初の所にある植栽は、栗であったり、胡桃や杏、梅であったり、いずれにしても実の成る木です。それも密植ではなく、ぽつんぽつんと植えられています。
そして、さらにその奥へ行くと、右側に間口十間、二十間もある大きな母屋がある。それに対応して、奥が仏間や客間になっていて、その奥にちょっとした池があったり、灯ろうがあったり、観賞用の庭になっているわけです。
このグラデーションが美しい。

 

小布施には栗の小径というのがあります。
路地空間とか、坂になったその地形から、建築雑誌その他でも随分、賞賛されています。
しかし、活字になっていないことが一つある。
それは、元々あそこに一番最初からあった胡桃の木です。
栗の小径と言うからには、下に敷いてある木レンガは栗で良いのかもしれません。役場の要請を受けて、十数年前にうちの栗畑から抜いてきた栗を一本、植えました。
いま現在、その栗の木と胡桃の木が生えています。
言うまでもなく路地空間であると同時に、使う庭の象徴的な木を植えています。

 

信州では特に典型的ですが、もう一度、使う庭の美しさを、いろんな場面で復元する。あるいは残っているものは大事にしていただきたい。
そして、新たにつくる場合も、植栽はそうした観賞用か使う庭用かの見分けを付けて演出していくことで、非常に地域らしい、そんな感じになると思います。
あるいは柿の木や梨の木などもいいでしょう。
有田の柿右衛門邸を写真などで見たこともおありかと思います。あれは、くず屋根に瓦の庇。そして手前に柿の木が一本、象徴的に植わっています。
柿右衛門だから柿、これが美しいのです。これも使う庭の一つだと認識いただけると思います。
このようなことを、町並み修景事業を進める中で気が付いたりしたわけです。

 

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